第11話

郵便ポストに刺さったままの新聞が、絵理香の不在を知らせる。


村瀬はそれを抜き取ると合鍵を使って中に入った。


昨日と何も変わっていない。


1ミリたりとも物が動かされた形跡はなかった。


家出とは思えなかった。


荷物が持ち出された様子もない。


干されたままの洗濯物が寂しげにつり下がっている。


家出じゃないとすれば、残されているのは……。


最悪の思考を電話のベルが遮った。


心臓が激しく縮む。


絵理香の家に、絵理香が電話をかけてくるはずはない。


警察か、それとも絵理香を誘拐した犯人か。


数コール後、留守番電話に切り替わった。


『ただ今留守にしております――』


固唾を飲んで、耳をそばだてる。


ピーという甲高い発信音の後に、受話器を置く音が響いた。


誰だ……。


この部屋にいて、電話が鳴ったのははじめてだった。


最悪の答えを知ってしまうのが怖くて、受話器を上げることはできなかった。


電話に出れば、何か手掛かりがつかめたかもしれない。


後に襲ってきた後悔に、村瀬は身を震わせた。


直後に村瀬の携帯電話が鳴った。


静かな部屋に着信音が反響する。


絵理香からかもしれない。


村瀬は慌てて携帯電話を取り出した。

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