第9話

その場から携帯電話を持って行った人物を特定することはできなかった。


当然、土屋の携帯電話の行方もわからないままだった。


それから間もなくして、経理部に勤める長野 美幸が死んだ。


自宅マンション8階から転落。


彼女は帰らぬ人となった。


遺書がなかったことから、自殺と事故の可能性があった。


――土屋の時と同じだ……。


長野美幸の身辺を探っていた時、彼女の恋人の携帯電話の中に、偶然にも絵理香の姿を見つけたのだ。


その恋人というのが、澤田だった。


どのように澤田と接触すればいいのか考えあぐねていた。


携帯を見せてくれと言うのは簡単だ。


自分の妹にそっくりな女が映し出されていると話すのも問題はない。


ただ――。


『このままだと、あなたも死ぬかもしれない』


心の中にあったこの疑問が、村瀬を消極的にさせていた。


土屋の死に、長野美幸の死に、なんらかの形で絵理香が関わっているのかもしれない。


いや、もしかすると絵理香ももう……。


その思いが足枷(あしかせ)となり、澤田とのコンタクトを妨げていた。


その結果がこれだ。


村瀬は震える拳に力を込め、再び地面に転がる澤田の死体を見下ろした。


土屋→長野美幸→澤田


ここまで追いかけてきて諦めるわけにはいかなかった。

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