第91話

由香が番号札を2枚抜き取り里美に手渡す。


受け取った番号は34。


今まで気にしたこともなかった数字『4』が、急に呪われた記号のように思えた。


34。


みんな死ぬ――。


里美は番号札を、手の平で握り潰した。


「結構混んでるね。待ち時間15分って書いてあったよ。その間携帯選ぼう」


由香に促され、里美も1番近くに置いてあった携帯電話から手に取る。


とりあえず眺めてみるものの、気乗りしていないせいか、これと言った機種が見つけられない。


店内に視線を向けてみると、5、6組 ほどの客が順番待ちをしている。


それぞれに携帯電話を手に取ったり、店内に設置された椅子に腰を下ろしたりしている。


由香の受付番号は35。


先に呼ばれるのは里美だ。


手続きの済んだ客が店を出て行く。


その度に電光掲示板の数字が増えていく。


後戻りできないところまで来てしまった。


本当は怖い。


今すぐにでも逃げ出したい。


でも……。


里美は由香の横顔を見つめた。


――どうして、携帯を壊したの。


心の中で由香を責める。


――どうして、携帯を池に捨てたの。


泣き出したい気持ちをぐっと飲み込む。


大丈夫、大丈夫――。


口の中で何度も呟いた。


何の根拠もない。


今の里美には、この言葉を自分自身に言い聞かせるしかなかった。


電光掲示板を見ると33が表示されていた。


里美は慌てて店内を巡る。


「番号札34番でお待ちのお客様、2番窓口までお越しください」


抑揚のない機械の音声。


その声を合図に、そばにあった携帯電話を慌てて手に取った。


そのまま2番窓口へと向かい、選んだメタリックブルーの携帯電話を差し出した。

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