第89話

【ゲームオーバー。ゲージがなくなったら終わり】


マサトシからの返信を見て、里美は胸騒ぎを覚えた。


ゲームオーバー。


終わり――。


マンションから飛び降りた真由美、炎に包まれた絵里、地下鉄に飛び込んだ見知らぬ女。


ゲームオーバーという軽い言葉に潜んでいるのは、死……。


里美の頭の中に、あるゲームが思い浮かんだ。


敵に当たれば簡単にそれは死に、溝に落ちれば簡単にそれは死ぬ。


そして最後に出てくる文字――。


GAME OVER


この言葉が、3人の命を軽視しているように感じて激しい怒りを覚えた。


これはゲームじゃない。


リセットボタンもない。


あの3人はこのゲームに失敗したから、死を迎えてしまったのだろうか……。


携帯電話を握ぎる手に力が入る。


「ね、里美もソレ早くなんとかしてくれないかな。こんなものと関わりあうのはもうイヤなんだ」


不意に話しかけられて、里美はビクッと肩を縮めた。


慌てて携帯電話を折りたたみ、カバンから手を引き抜く。


「真由美のことは、長い時間かけてでも乗り越えて行こうって思ってる。でも真相を突き止めようとすることは、もうやめる。自分勝手かも知れないけど、私はもう携帯彼氏に関わりを持ちたくない」


由香は里美の行動には全く気がついていない様子で、真剣な顔つきのままハンドルを握り締めている。


「真由美も地下鉄の女の人も、自殺だったんだよ。そう思うことにした。でも、1つすっきりしないのは、里美の職場の子のことなんだ」


由香の言葉に、里美は凍りついた。


絵里は、絵里だけはゲームオーバーになっていなかった。


それなのに、どうして絵里は死ななければならなかったのか……。


「絵里って子だけは、自殺だったって割り切れないでしょ。里美は一部始終を目撃してた訳だし。だから、もし里美が携帯彼氏をこのまま続けるんだったら私……」


由香はそこで言葉を切った。


「うん。わかってる。私もなんとかしなきゃって思ってるよ」


「じゃ、一緒にやろう。機種変。私、携帯がなくなったからこれから買いに行こうと思うの。だから一緒に……」


由香の要求を簡単に飲むことはできない。


もし機種変更をしてしまったら、マサトシと接触できなくなってしまう。


そうなれば由香と同様、知らない間にゼロへとカウントダウンが進み……。


そして――。

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