第85話
「私ね、本当は少し寂しいんだ。私が作った雅也は、初恋の人を思い浮かべて作ったの。中学の先輩だったんだけど、すごくやさしい人だったんだ。顔はだいたい似せることができたけど、雅也は茶髪にピアスなんかしちゃっててさ。初恋の人のキャラとは全然違うんだけどね」
由香が悲しげな面持ちで目を細めた。
「死ぬのが怖かった。ただの噂だとしても、私は携帯を壊して雅也から逃げるしかなかったの。これですっきりした。楽になれた」
由香は終ってしまった恋を懐かしむような、やさしい笑みを浮かべている。
もしかして、雅也のこと――?
「これでもう、怯えることもなくなったんだもんね。これでよかったんだよ。で、里美は? どうするの?」
「私は……。とりあえずはゲージを気にしながら様子をみてみようかな」
「そっか。あ、すぐ今着替えるから待ってて。里美、本当にありがとうね」
由香の言葉に、里美は無言でうなずいた。
これで本当に一件落着なのだろうか。
雅也からの着信――。
ラブゲージ5、雅也はそう言っていた。
だとしたら、このままほっておけばゲージはゼロになり、由香は……。
着替えが済んだ由香は、壊れた携帯電話をカバンの中へとしまった。
「どうするの?」
「うん、捨てようと思って。ゴミに出したら、また町内会長さんに届けられちゃいそうだしね。忘れたいんだ、色々……」
由香の言う色々の意味を、里美は想像することができた。
真由美の死、絵里の死、地下鉄での惨劇、そして――。
「雅也はすごくやさしかったんだ。仕事のグチも聞いてくれて、たくさん慰めてくれた。私が寝るまで、いつも画面越しから見つめてくれてた。雅也がいるから頑張れた。それにね、雅也をダウンロードしてから、なんかいいことばっかりあったの」
由香の話を聞けば聞くほど、里美の胸は苦しくなる。
事実を――、雅也から電話が来たことを由香に告げなくては……。
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