第77話
土曜日の昼下がりは、平和を絵に描いたような光景があちこちで見られた。
やわらかい母親の笑顔に見守られながら、元気一杯に駆け回る子供たち。
歓声を上げながら、公園で野球をする小学生。
愛犬と散歩を楽しむ人々……。
そんな中、携帯電話を手にした女の人を見ると、里美の胸は跳ね上がる。
たとえそれがメールをしているだけであっても、里美の体からは冷や汗が滲み出た。
どのくらい携帯彼氏が出回っているのかはわからない。
この先一体何人の犠牲者が出るのか。
里美の携帯彼氏マサトシに変わった様子は見られなかった。
マサトシもいつかはリクのように、携帯電話から抜け出し、里美を殺すのだろうか。
だが、噂を信じるなら、ラブゲージの数字にさえ気をつけていれば、そこまで恐れる必要もない気がしていた。
携帯彼氏によって命を落としてしまった人は、ラブゲージのことを知らなかったからに違いない。
携帯彼氏をダウンロードしている人全員に、このことを知らせるにはどうすればいいのだろう。
どうすれば食い止められるのか……。
里美は下唇をきつく噛み締めた。
久しぶりに見た由香の家は、高校の頃に比べ外壁の色がほんの少しだけ褪せていた。
卒業してからは、お互いの家で遊ぶことがなくなっていた。
里美は懐かしさに、胸をくすぐられた。
由香の部屋がある2階へと視線を向ける。
窓は、ピンク色のカーテンがしっかり閉められたままになっていた。
――どうしたんだろう……。
今日は土曜日だから、仕事は休みのはずだ。
まだ寝ているのか、それとも部屋が変わったのだろうか……。
訝しげに思いながらも、里美は玄関のチャイムを押した。
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