第73話

血の臭いが取れるまで、里美は何度も何度も体を擦った。


隅々まで、シャワーを向ける。


耳の中、指の付け根……。


勢いよく飛び散った血液は、体の至るところに潜んでいた。


流しても流しても、下へ零れる水滴は透明にならない。


何かを暗示するように。


次に血を流すのはお前だ……そう言われているような気がして、里美は一心不乱にシャワーを浴び続けた。


皮膚が摩擦と熱により赤く変色した頃、体に浴びた血液はきれいに流れ落ちた。


もうどこからもピンク色の水は滴ってはこない。


里美は湯を止め、バスルームの扉を開いた。


目の前の棚から、バスタオルを1枚拝借する。


足下には、血の染みた服が収められている袋が同じ位置に置かれたままになっている。


脇にあるカゴを見ると、中はカラッポのままだった。


「お母さん、まだ来てないんだ」


――ん?


何かを打ちつけるような鈍い音が聞こえている。


一定のリズムで、何かを叩きつけているような……。


それは次第に大きくなっているような気がした。


「由香?」


声をかけるが返事がない。


「どうしたの?」


再びかけた声がうわずった。


嫌な予感がする。


――まさか!?


由香のラブゲージは98まで上がっていた。


心臓の鼓動が激しくなる。


緊張感はピークに達していた。


里美は急いでバスタオルを巻いて、由香の元へと飛び出した。

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