第65話

里美は両腕を抱えて、震える体を押さえつけた。


ウエートレスがやってきて、床に広がったクリームとグラスを片付け始める。


何か話しかけられたような気もしたが、里美の意識はあの日の惨劇に引き戻されていた。


「ごめん。言い過ぎたね。でも携帯彼氏はマジでヤバイかもしれない。もしものことがあったら……」


由香はそこで言葉を切った。


もしものこと――。


それは、携帯彼氏によって、死がもたらされるということだ。


里美はテーブルの下で携帯電話を開いた。


ダウンロード直後50あったゲージは30にまで減っていた。


――さっき裕之の携帯にマサトシのデーターを送ろうとしたから?


つまらなそうな表情を浮かべるマサトシの頭を指でなぞった。


『真実が知りたい?』


ふいにリクの残したセリフが頭をよぎる。


真実が知りたい。


携帯彼氏とは一体何なのか、本当にこれで人が死ぬのか……。


でも、キーマンであるリクはいない。


絵里の携帯電話にいたリクは、絵里の死後跡形もなく消え去ってしまった。


―― 一体どこへ行ってしまったの?


心の中で、リクに問う。


当然答えが返ってくるはずもない。


真実が知りたい……、いや知らなくてはならない。


このままでは、いつ自分も命を落としてしまうかわからない。


今の里美にできることは、ラブゲージの調節をしていくことだけだ。


「私、もう少し携帯彼氏について調べてみる。里美も何かわかったことがあったら教えて。私、死にたくない。絶対にイヤ! 怖いよ」


目に涙を溜めて訴えてくる由香にかける言葉は見つからなかった。


里美の携帯にも、ダウンロードされている。


由香と同じ、怯える立場だ。


里美はテーブルの下から手を抜き、由香に画面が見えるようにそっと置いた。


「私だって、死にたくない……」


「里美! どうして?」


由香が驚愕のため息をもらした。


「見つけよう。必ず助かる方法を」


里美の強い口調に、由香は無言のまま何度も何度も頷いた。

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