第64話
携帯彼氏で人が死ぬ……。
そう言われたところで、にわかに信じることはできなかった。
確かに、里美は自らおぞましい経験をした。
だが、それは携帯彼氏というよりも、「リク」になんらかの原因があったのではないか。
最初にマンションから飛び降りた真由美と、ロッカールームで炎に包まれ亡くなった絵里に共通しているのは「リク」だ。
携帯彼氏が問題なのか、リクが問題なのか。
それを証明するには、今現在、携帯電話の中にいる「マサトシ」で確認するしか方法はない。
ラブゲージを0にするか、100にしてしまえば答えは出る。
でも。
そのもしその噂が本当だったら……。
マンションの下に飛び散った血痕と、燃え盛る炎の中で苦しみ叫ぶ絵里の映像が、頭の中で繰り返し流れる。
――次は私……?
里美は足元から駆け上る寒さに、身震いした。
「そんなの噂に決まってるよ」
自分に言い聞かせるように、里美は明るく笑った。
「本当に!? 本当にそう思ってるの? 携帯彼氏に関わった人が私たちのまわりで2人も死んでいるんだよ」
「でも、それは……」
「里美だって、見たんでしょ? 携帯電話から焼けただれた男が出てきて、絵里って子を焼き殺したとこ。ネットでも、携帯彼氏をやってた子が何人も不審死してるって書き込がみあった。それでも信じられないの? だったらあの日、里美が見たものは一体なんだっていうの?」
あの日見たもの……。
パフェグラスの中を覗くと、アイスクリームとチョコソースが溶けて混ざり合い、やわらかくなったコーンフレークが表面を覆っていた。
茶色いクリーム、ふやけたコーンフレーク……。
アイスクリーム……。
あい・すくりーむ……。
携帯彼氏……。
赤黒く焼けた肌は、ぶよぶよにふやけて……。
「イヤー」
気がつけば、パフェグラスを思い切り手の甲で払いのけていた。
グラスの中の状態が、リクの姿と重なった。
店内にグラスの割れる音が響いた。
里美に視線が集まる。
床に広がるパフェが、閉めたはずの記憶の扉をこじ開けていく。
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