第63話

注文したチョコレートパフェが運ばれてきても、由香は俯いたまま黙っていた。


肩が小刻みに揺れている。


泣いているのか、それとも震えているのか……。


「その噂詳しく教えて」


里美はアイスをすくって口へと運んだ。


あのロッカーでの出来事以来、溶けているものが苦手になっていた。


このまま食べずに置いておけば、アイスはどんどん溶けてしまう。


携帯から出てきたあのおぞましい姿……。


それは、ちょっとしたきっかけで里美に思い起こさせる。


たばこの煙、熟したトマト、ろうそくの炎……。


視覚、聴覚、嗅覚が、あの日の恐怖を決して忘れない。


「ね、とりあえず食べよう。私……」


「ごめん。里美、思い出しちゃうよね。ホントごめん」


由香は慌ててスプーンを握った。


それにしても、携帯彼氏のラブゲージで人が死ぬなんてことがあるのだろうか。


「真由美が死んで、里美の職場の女の子も亡くなってしまった。どちらも携帯彼氏が関係しているに違いない。だから、インターネットで携帯彼氏ってキーワード入力して調べてたの」


由香の話では、他にも携帯彼氏が関わっていると思われる不審死が多発しているらしい。


「真由美の携帯に残されていたラブゲージは0。里美の職場の子は、おそらく100になってしまったんだと思う。里美が最後に確認した数値は98だったんだよね? その後、ゲージが上がってしまったから、その子は……」


「そんな……」


もしその噂が本当だとすれば、一体どうすればいいのか。


「死にたくなかったら、ゲージを0と100にならないようにコントロールすればいいって書いてあった。削除はできないし……」


由香は自らの携帯電話をテーブルに乗せた。


「由香の携帯彼氏のゲージは?」


「98……。もしあの掲示板を見つけてなかったら、私も今頃は……」


由香は声を押し殺しながら涙を流した。

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