第62話

裕之と別れた里美は、街中をあてもなくブラブラ歩き回っていた。


このまままっすぐ家に帰る気分にはなれなかった。


ウインドーショッピングを楽しみながら歩いていると、あることに気がついた。


女の子のほとんどが携帯電話を手に歩いている。


今の時代、その光景に驚くことはない。


正確に言うならば、携帯彼氏を手に歩いていた。


「こんなに流行ってるんだ」


里美は辺りを見回した。


画面を撫でている人、話しかけている人……。


斜め前に歩く女の携帯を覗き込むと、そこにははっきりと携帯彼氏が映っていた。


里美のポケットが振動を伝えてくる。


――裕之!?


だがその思いはすぐに消え去る。


きっとマサトシからだろう。


里美は携帯電話を取り出した。


「由香? どうしたの?」


電話の向こうから聞こえた由香の声は、どこか緊迫しているように感じた。


「これから会えない?」


由香の誘いを快諾し、待ち合わせの場所へ向かう。


雑居ビルの地下にある、おいしいパフェの店に行くことにした。


里美が着いて15分後に由香がやってきた。


顔は青白く、血の気が引いていた。


「具合でも悪いの?」


里美の問いに由香は大きく首を振った。


「携帯彼氏、ヤバイかも。変な噂がネットで流れてるの。ラブゲージを0にしても100にしても死ぬって……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る