第60話

駅から歩いてすぐの場所にある、ファーストフード店へと入る。


あまり食欲がわかなかったので、里美はアイスティーだけを注文し席についた。


里美は、真由美が亡くなった日から、今日までの出来事を裕之に話した。


裕之はハンバーガーをほおばり、次から次へとポテトを口へと運ぶ。


適当に相槌を打つだけで、聞き返してくることも、驚くこともしない。


あのロッカーで起こったことを事細かく話して聞かせても、携帯彼氏の説明をしても「ふ~ん」と気のない返事を返してくるだけだった。


これなら携帯彼氏の方が楽でいいと里美はため息をついた。


確かに携帯彼氏も、構ってやらなければゲージは減ってしまう。


でも、画面を撫でたり、たくさん話をしてやれば、すぐにゲージは元に戻る。


リアル彼氏の場合は、こうは行かない。


どんなに機嫌よく話しかけてやっても、気を使ってやっても、なかなか効果がでない。


携帯彼氏の人気の理由が、リアル彼氏を目の前にしてわかった気がした。


「そうだ! 携帯彼氏を見せてあげる。今、色々調べてるの」


里美は携帯電話を取り出した。


「マサトシって名前なの。大学生」


「へ~ぇ」


裕之は、くだらねぇという表情を浮かべながら、コーラを飲み干す。


「オレ、ちょっと便所行ってくるわ」


裕之の態度に、里美は涙が出そうになった。


もう少しやさしくしてくれてもいいのではないか。


友人を2人もなくし、怖い思いもした。


そのせいで、仕事にも行けなくなっているのに、なぜあんな冷たい態度が取れるのだろう。


クシャクシャに丸められたハンバーガーの包みの脇に、裕之の携帯電話が置かれているのが目に入った。


ついこの前までは、もっとやさしかったのに……。


――まさか、女!?

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