第59話

里美は携帯彼氏マサトシをポケットに忍ばせたまま、後藤裕之との待ち合わせ場所へと向かった。


ここ数日、様々な出来事がありすぎて、しばらく裕之とは会っていなかった。


――久々だから、なんかドキドキするな……。


18歳の時から付き合っているので、もう2年になる。


それなのに、こんなにドキドキできるなんて思ってもいなかった。


駅前は祝日ということもあり、非常に混雑していた。


雑踏の中に、裕之の姿を確認する。


好きな人は、どんなに遠くてもわかるもんなんだなと、里美は少し嬉しくなった。


里美は軽く手のひらで髪型を整え、裕之に向かって手を振った。


久しぶりに、さわやかな笑顔を見られると思っていた。


だが、裕之はニコリともせず里美の隣に並んだ。


「裕之、久しぶりだね。全然会えなくてごめんね」


「あぁ」


帰ってきた言葉は、それだけだった。


友達が死んじゃって大変だったね、とか、火傷は大丈夫、とかやさしい言葉をかけてくれるものだとばかり思っていたのに……。


喉の火傷で入院している間、裕之からメールは1通も来なかった。


病院だから気を使ってくれているんだと思っていたが、本当は心配じゃなかったのかもしれない。


里美の頭にラブゲージが浮かんだ。


真由美の死、携帯彼氏リク、絵里の死、ケガ……。


会えなかった日々が、裕之との間にほころびを生んでしまったような気がした。


裕之のラブゲージは、0に近いのかもしれない。


「あんまり連絡もできなくて、本当に悪かったなって思ってるの」


里美の言葉に返事を返すことなく、裕之は「お腹すいた」と言った。

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