第58話

たくさんあるパーツを合わせ、微調整を繰り返す。


眉毛の長さや角度、唇の幅や形……。


「うん。よくできた」


里美は携帯彼氏を見つめて頷いた。


気がつけば1時間もの時間を費やしていた。


出来上がった携帯彼氏は、まだイラスト風だ。


リクは本物の人と見まごうほどリアルだった。


決定ボタンを押せば、きっとそう変化するのだろう。


色黒で短髪。


切れ長の瞳。


決定ボタンを勢いよく押す。


ロードの時間が長く感じられた。


職業は何にしようか、名前は何にしようか、あれこれ考えているうちに、自然と笑みがこぼれていた。


「何してんの? 私」


楽しむために、携帯彼氏をダウンロードするんじゃない。


真由美と絵里の死の真相を確かめるためにダウンロードするのだ。


里美は首を大きく左右に振った。


【携帯彼氏のできあがり】


その文字を目にしたとき、妙に心がくすぐったく感じた。


はやる気持ちを抑えつつ、出来上がった携帯彼氏を確認する。


イラストの顔とは微妙に異なっていたが、なかなかのできだ。


里美の携帯電話にはリアルな画像が映し出されている。


「初めまして、マサトシです。大学4年だけど、1浪してるから」


マサトシと名乗った携帯彼氏は、鼻をかきながら照れた笑いを浮かべた。


なおも話し続けようとするマサトシを里美が制した。


「ちょ、ちょっと待って! 名前も職業も自分で決められるんじゃないの?」


里美はすぐにあい・すくりーむのサイトに繋いだ。


「明るくスポーツ万能なお医者さんとの恋も夢じゃないゾ……。そう書いてあっても、自分で決められるとはどこにも書いてなかった」


里美は少しがっかりしていた。


パイロットかプロ野球の選手にでもしようと考えていたのに、よりによって大学生とは。


「ダウンロードした彼氏につきましては、削除はできません……か」


里美は携帯彼氏マサトシを沈んだ気持ちのまま見つめた。

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