第55話

自らオイルをかぶった……?


――そんな馬鹿な。


絵里はリクに殺されたはずだ。


絵里の悲鳴が聞こえ、その後携帯電話から煙が立ちのぼった。


『絵里でもいい。逝こう、一緒に』


目の前に現れたリクがそう言った直後、絵里の体は炎に包まれた。


その間、絵里は必死でリクから逃れようとしていて、自らオイルをかぶったりなどしていない。


戸惑い、落ち着きをなくした里美を見て、五十嵐がさらに続ける。


「相川絵里さんは大声を張り上げたかと思うと、激しく痙攣し始めた。そしてロッカーに手を伸ばし、ジッポ用のオイルを頭からかぶった」


ジッポ用のオイル……。


なぜ絵里がそんなものを持っていたのだろう。


未成年の絵里は、たばこなんか吸っていなかった。


「異変に気づいた君が相川絵里さんの元へ駆け寄り、そのまま倒れてしまった。その後警報器が鳴って、デパートの守衛たちがすぐに駆けつけたんだが……。絵里さんはもう」


五十嵐はそこで口をつぐんだ。


里美が実際目にしていたことと、盗撮用ビデオが見ていたこととではあまりにも相違がありすぎた。


信憑性が高いのは明らかにカメラの方だ。


絵里が自分で火を付けたことが事実だとすれば、里美が見たものは一体何だったのだろう。


「すみません、もう疲れたので休ませてください」


「あぁ、悪かったね。カメラにあれだけはっきり映っていたから、自殺であることに間違いはないんだが……。どうも釈然としなくてね」


五十嵐はお大事にとだけ言い残し、病室から出て行った。


里美は緊張から解き放たれ、安堵のため息を漏らした。


「痛っ」


息が喉を通過した際、激しい痛みが走る。


痛みを感じる機能が、恐怖や疑念のせいで著しく低下していたようだ。


その痛みは、里美が先ほど見た惨劇も同時に思い起こさせた。


そして確信を持たせる。


リクが絵里を殺したということを……。

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