第52話

ゆっくりと目を開けたとき、里美は自分がどこにいるのかわからなかった。


白い天井と静寂。


寝坊をしたときのように、勢いよく起き上がった。


左手が妙に動かしにくい。


見ると腕には針が刺さっていて、そこから細長い管が繋がっていた。


――病院?


里美は、殺風景な病室を見渡した。


ベット脇に置かれたTV台に、携帯電話が乗せられていた。


「これ、絵里の……」


里美は恐る恐る携帯に手を伸ばす。


携帯電話は、多少すすで汚れているものの、目立つ損傷はなかった。


深く息を吐き出してから、ゆっくりと携帯画面を開いた。


「どういうこと?」


真由美の携帯電話には、リクが静止画として残されていた。


だが、絵里の携帯電話にその姿はない。


ポップな柄の待ち受け画面が、持ち主がいなくなってしまったことも知らずに着信を待っていた。


「もう、絵里はいなんだから……」


携帯電話に向かってつぶやく。


もう絵里はいない。


絵里は目の前で、無残な死を遂げたのだ。


里美は自分自身を呪い殺してやりたかった。


携帯彼氏のことを絵里に気づかれていなければ、休憩のとき携帯電話をレジに忘れていかなければ、強引にでも絵里の携帯電話を奪っていたら……。


「絵里は死なずに済んだんだ。私が殺したも同然だ」


寝心地の悪いベットを両腕で叩きつけた。


「絵里、ごめん。熱かったよね。痛かったよね。怖かったよね。苦しかったよね。私のせいで……」


里美はベットに突っ伏して、声をあげて泣いた。

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