第51話

炎の勢いがより一層強くなり、絵里の断末魔の叫びが、豪雨のごとく降り注いだ。


「絵里ー! 誰か、早く来て!」


里美はかすれる声を張り上げて助けを求めた。


喉から血が出たのではないかと思うほどの激痛が走ったが、気にする余裕はなかった。


つま先に何かが触れた。


――携帯電話!?


床を滑るようにして里美の足下に転がってきたのは、絵里の携帯電話だった。


屈みこんで拾い上げる。


視線を前方へ戻すと、リクがこちらに笑顔を向けていた。


「真実が知りたい? それはね……」


リクの声はそこで途切れた。


と同時に、目の前の煙と炎が一瞬にして消滅する。


リクの姿も、赤黒い肉片も、床に広がる血液も、異臭も、全てなくなっていた。


夢を見ていたのだろうか……。


だが、里美の右手にはしっかりと絵里の携帯電話が握られている。


恐る恐る辺りを見回す。


想像しているものが、そこにないことを切に願った。


「ひっ」


先ほどまで見ていた悪夢がフラッシュバックする。


絵里は、里美の約2メートル程先に倒れていた。


「絵里!」


里美はすぐに絵里に駆け寄った。


確認しなくても、すでに息がないことは明らかだった。


全身に火傷を負った絵里の姿は、携帯電話から現れたリクの姿を思い出させた。


水泡でいびつに変形した顔。


赤くただれた肌。


溶けた洋服。


先ほどまで目の前で繰り広げられていた惨劇は、現実のものだった。


里美は絵里の死体を目の前に気を失ってしまった。

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