第45話

里美は自らの携帯電話を取り出し、絵里の携帯と合わせる。


赤外線通信の画面を選択し、ボタンを押した。


データーの移行時間がもどかしいほど長い。


ちらっと絵里に目線をやったが、まだ客から解放されそうにない。



エラー



携帯電話の画面に表示された文字を見て、慌てて始めからやり直す。


――え? どうして……。


その後何度やっても、携帯電話に表示されるのはリクではなく、エラーの文字だけだった。


「里美さん、何してるの?」


携帯の操作に夢中になりすぎて、絵里が接客を終えていたのに気がつかなかった。


「ムダだよ。元カノのところには戻らないらしいよ。友達の友達から聞いた話だけど」


絵里がため息を漏らす。


「ま、寝取っちゃった私が言うのもなんだけど、リクのことは諦めて、里美さんは新しいケー彼でも作りなよ。でもリー彼いるからいいっか」


絵里の言葉に里美は眉をしかめた。


なぜ絵里に説教じみたことを言われなくてはならないのか。


元はといえば、絵里がリクを奪ったことが原因なのだ。


それに意味不明な言葉……。


「そのケー彼とかリー彼って一体何なの?」


「ケー彼は携帯彼氏で、リー彼はリアル彼氏」


絵里の話だと、この呼び方は既に定着しているらしい。


周りに携帯彼氏をダウンロードしている人が結構いるという話を聞き、里美は少しだけ安心できた。


真由美が自殺してしまったことは、携帯彼氏が関係しているのかと思ったが、これだけ流行っているのなら、何かあるとも思えにくい。


――考え過ぎかな……。


そう思いゴミ箱を覗き込む。


ゴミ箱にはリップグロスが寂しげに収められている。


――これでも考え過ぎっていえるの……?


里美は頭を抱えた。

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