第43話
1人きりの時間はとてつもなく長く感じた。
「休憩あがりました」
絵里の姿を確認した瞬間、里美は体中の力が一気に抜け落ちた。
張り詰めていた緊張感がほぐれたのと同時に、安心感から薄っすらと涙がうかんだ。
絵里に悟られないよう、顔を上げながら視線を逸らす。
「あれ? 店長は?」
「本社に行ったよ」
「そっか。ラッキー」
そう言って、絵里が携帯電話を堂々と開く。
「ちょっと、仕事中は携帯はダメだよ」
「大丈夫! お店だってこんなに暇だし、店長もいないし」
そう言って、絵里が携帯電話に向かって話し始める。
「仕事中だけど、話できるよー。ね、ね、リクは帰宅部だったんでしょ? じゃあさ、得意なスポーツとかないの?」
――リク!?
その名前を聞いて思い出した。
絵里に携帯彼氏を寝取られてしまったことを……。
「ねえ、リクを返してくれない? 私リクがいないと困るの」
まだ、真由美のことは何もわかっていない。
なんとしてでも絵里からリクを取り戻さなければならないと里美は思った。
「私だって困るよ。これ超楽しいね。マジ恋しちゃいそう。リクと話してると楽しくて」
携帯電話を見つめる絵里の瞳は潤い、頬はほのかにピンク色に染まっている。
「リクも、私と話していると楽しいって。それに好きだよって言ってくれたの」
まるで本当の彼氏の話でもするかのように浮かれている絵里を見てると、たかが携帯のゲームに本気になるなとは言えなかった。
「ちょっと貸して」
里美は半ば強引に絵里の手から携帯を奪った。
「初めまして。絵里のお友達?」
リクが画面を通して里美に語りかけてくる。
「あなたの元カノの里美よ」
「えーっと。ちょっとわからないなぁ」
リクはテレ笑いを浮かべて頭を掻く。
真由美の時と全く同じ反応。
元カノの情報はリセットされるというのは本当なのだろうか。
「本当に覚えてないの?」
「ごめん。全く覚えてない」
笑い声の混じった返答に、またも嘘くささを感じた。
リクは何かを知っている。
以前は漠然とした予感でしかなかったが、今なら確信をもって言える。
リクと過ごした数日間で、里美が気づいたこと。
それはリクが嘘ついたり、都合が悪くなると頭を掻くクセがあるということだった。
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