第41話

「お帰り~。里美さん、具合でも悪いの? 顔色悪いよ」


店に戻ると、絵里が心配そうに顔を覗き込んできた。


「全然平気だよ。疲れが取れてないからかな」


里美は適当に話を合わせた。


携帯彼氏リクが消え、トイレの中でただならぬ気配を感じた後だ。


顔から血の気が引いているのは、当然のことだろう。


里美は、真由美と同じように、自分にも死が訪れてしまうのではないかと、不安でたまらなかった。


「あ、里美さん、寝取りって知ってる? 私寝取っちゃった」


「寝取るって何を?」


「つまりー、本人が知らない間に、彼氏が奪われちゃってるってこと」


絵里の発言の意味がわからなかった。


「んもう! だからね、里美さんの携帯彼氏を私が奪っちゃったってこと。さっき休憩行くとき忘れてったでしょ? 携帯。だからこっそり赤外線しちゃったの」


そう言って、絵里は自分の携帯電話を開いて見せた。


そこには見慣れた顔で笑う、リクの姿があった。


絵里に文句の1つでも言ってやろうと口を開いたが、それより先に絵里がしゃべりだす。


「彼氏を奪われちゃうのは、彼女が悪いんだからね。私が悪いんじゃないよー」


悪びれた様子もなく、絵里はベロっと舌を出した。


リクの消えた理由がわかって、里美は少し落ち着いてきた。


真由美の死以来、すぐに悪いほうへと思考が傾く。


「じゃ、次休憩行ってきまーす。あ、そうだ。これ落ちてたよ」


絵里が差し出してきたのは、さっきトイレで落としたはずのリップグロスだった。

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