第40話
里美は携帯電話を閉じ、洗面台へ向かった。
「ひどい顔……」
疲労が蓄積されている顔には、どす黒いクマが現れていた。
そのクマをカバーするように、何度も何度もファンデーションを重ね塗りする。
そのとき、視界の端に大きな影がものすごい速さで通り過ぎるのが見えた気がした。
慌てて振り返る。
当然ながら誰もいない。
扉が開閉する音も聞こえなかったのだから、当然だろう。
では、さっきの影は一体……。
気味が悪くなり、里美は化粧をする手を早めた。
口紅を引いて、グロスを重ねる。
余計なものが見えてしまわないように、鏡に映る自分の唇だけに視線を合わせた。
一刻も早くトイレから出たかった。
背中に視線を感じる。
誰もいないはずの個室の方から、何者かに見つめてられているような感覚。
焦ったせいでグロスが大きく唇からはみ出してしまった。
携帯彼氏リクがいなくなった携帯電話を残して、不審な死を遂げた真由美。
今、里美の携帯電話にも、携帯彼氏リクはいない……。
高鳴る鼓動を抑えられず、体が強張る。
手に持っていたグロスが、恐怖から来る振るえに耐え切れず床に転がり落ちた。
転がった先は視線を感じている場所、後方の個室だった。
グロスが床を転がる音がトイレ内に響く。
里美は振り返ることができなかった。
落としたグロスをそのまま放置して、里美は逃げるようにトイレから飛び出した。
感じていた視線は、出入り口の扉がしっかり閉ざされるまで振り切ることができなかった。
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