第37話

それからも携帯彼氏リクからは、何の情報も得られていない。


ラブゲージが0になると携帯彼氏が動かなくなることがわかったので、里美は適当にリクとのコミュニケーションを計っていた。


「里美さんの携帯、さっきからブーブー鳴りまくってるよ」


レジカウンターにいた絵里が里美に向かって手招きする。


月の中旬は、売り上げがあまり上がらない。


里美の店がテナントで入っているこのデパート自体に客が入らないのだ。


まして平日となると、時間を持て余してしまうほどだ。


「ありがと」


カウンターの下にある棚から、携帯電話を取り出す。


――やっぱりリクからだ。


店長が席を外していたので、里美はレジの下でそっと携帯電話を開いた。


ここでリクと会話をする訳にはいかないので、里美は短めにメールを作成してリクへと送った。


「あれ? それもしかして携帯彼氏? 里美さんやってるんだー。意外だな。私もやりたいって思ってるんだ。って、すごいかっこいーし。いいなー、超タイプだし」


こっそり隠れてやったつもりだったが、後ろから絵里に覗き込まれていたようだ。


絵里は興味津々な様子で、携帯彼氏について根掘り葉掘り聞いてきた。


「えー、いいな。楽しそう。この顔めっちゃイイ! 赤外線で譲ってー」


「でも私も始めたばっかりだから、ダメだよ」


里美は慌てて首を横に振った。


リクから情報を聞き出すまで、手放す訳にはいかない。


絵里は頬を膨らませて拗ねて見せた。


「絵里が自分で好みの顔を作ればいいじゃん。たくさんあるパーツを組み合わせて自由に作れるみたいだよ」


「だって、めんどくさいんだもん」


絵里の言葉に「今時の若者は」と言いそうになる。


たった1つしか違わないのに、この差は何なのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る