第8話

ポケットの中の携帯電話がけたたましく鳴り響き、里美の遠のきそうな意識は引き戻された。


着信ボタンを押すと、か細く消え入りそうな声が聞こえてきた。


「里美も、ここに来てるんでしょ?」


声の主は小野寺由香だった。


真由美と由香とは高校からの付き合いだ。


卒業後、里美はアパレルの仕事につき、由香は文房具用品を卸す会社のOL。


そして真由美は……大学生だった。


それぞれが違う道へと進んだが、三人の関係は変わることはなかった。


由香と合流するため、里美はいったん人だかりの輪から抜け出た。


由香は青白い顔をして、向かいにある民家の壁に寄りかかるようにして立っていた。


化粧をしていない分、血の気の引いた顔色は透き通ってしまいそうに見えた。

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