第9話

里美は声もあげずに涙を流している由香の隣に並んだ。


由香の涙を見て、里美の涙腺が泣くという行為を思い出した。


あまりにもショックが大きいと、人は泣くことすらできなくなるということを、里美は初めて知った。


「由香も真由美の妹から連絡もらって来たんだね」


里美の問いかけに、由香は目を合わせないまま首だけを横に振った。


「真由美の彼氏から電話がきたの。真由美これから死ぬよって。真由美、最近彼氏と上手くいってないって悩んでて……」


「ちょ、ちょっと待ってよ。真由美いつ彼氏できたの? 私全然知らなかった」


「里美には黙ってて言われたの」


由香の言葉が胸に突き刺さる。


親友だと思っていたのに、彼氏ができたことを隠していたなんて……。


「で、真由美の彼氏はどこにいるの? どうして真由美が死ぬってわかってて、彼氏は止めなかったの?」


真由美に彼氏の存在を隠されていたことのへの怒りと、真由美の死をただ黙って見過ごした彼氏に対する怒りで、里美の声は震えた。


「彼氏は、これだから……」


そう言って由香が指を刺したのは、携帯電話だった。


「ごめん、言ってる意味が全然理解できないんだけど」


里美は混乱した。 


彼氏が携帯電話って、一体どういう意味なのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る