第二部

act 1

早朝5時半、吉本晋也のマンションの一室。 目覚まし時計のアラームが鳴る前に、吉本は静かに目を開けた。長年の習慣で体内時計が正確に働いている。

ベッドから起き上がり、カーテンを開ける。まだ暗い外の世界に、少しずつ朝の気配が漂い始めていた。

キッチンから、ミキサーの音が響く。朝食の準備が始まった瞬間だ。

ガラスの容器に、厳選された材料が次々と投入される。まずは新鮮な葉物野菜。ケールとほうれん草が鮮やかな緑色を添える。次に、完熟したバナナ半分と小さじ一杯のチアシード。タンパク質源として、無調整の豆乳とプレーンヨーグルト。最後に、吉本お気に入りの秘密の材料―ビーツパウダーが加えられる。


6時15分。吉本はジョギングウェアに着替え、マンションを出る。 まだ涼しい外の空気が、彼の肌を軽く刺激する。

いつもの公園へ向かって軽やかに走り出す吉本。 心拍数を一定に保ちながら、周囲の景色を楽しむ。 木々の間から差し込む朝日が、少しずつ街を明るく染めていく。

公園の中ほどにさしかかったとき、いつもの場所でいつもの人物を見つけた。 ベンチに腰掛け、鳩に餌をやる老紳士。白髪で、背筋の伸びた姿勢が印象的な男性だ。

「おはようございます」と吉本が声をかける。 老紳士が顔を上げ、穏やかな笑顔を向ける。「やあ、今朝もご機嫌だね」

二人の会話は、いつもこれだけだ。名前も知らない。 しかし、この短い挨拶が、吉本の一日の始まりに小さな温かみを与えている。

ジョギングを終え、マンションに戻った吉本。 シャワーを浴び、スーツに着替える。 鏡の前で髪を整えながら、彼は深呼吸をした。

「さあ、今日も始まるか」

胸の内で、未知なる創造への期待が静かに膨らんでいく。 吉本晋也の、いつもの朝の風景だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る