255g の日常。

早朝5時。久我哲也(42)は、まだ暗い部屋でネクタイを締めていた。


「また朝帰り?」

妻の静かな声に、哲也は振り返る。

「ああ、昨日の会議が長引いて...今日も早いんだ」


妻は何も言わず、背を向けて眠りについた。哲也は深いため息をつく。


オフィスに到着すると、すでに部下たちが待機していた。


「おはようございます、久我部長」

「ああ。昨日の企画書の修正は?」

「はい、一晩中かけて仕上げました」


哲也は無言でファイルに目を通す。部下たちの緊張が空気を重くする。


「...よし、これなら行けるだろう。みんな、よく頑張った」


部下たちの表情が緩む。哲也は心の中で自分を戒める。

「もっと早く褒めるべきだったな...」


午前中は役員会議。哲也は必死に眠気と戦いながら、新規プロジェクトのプレゼンテーションを行う。


「このプロジェクトが成功すれば、我が社は業界トップに躍り出ることができます」


自信に満ちた声とは裏腹に、哲也の心は不安で揺れていた。


昼食時、哲也は一人でデスクで弁当を食べる。携帯に娘からのメッセージが届く。


「お父さん、今度の日曜日、運動会なの。来てくれる?」


哲也は返信を躊躇う。日曜日は重要な取引先との会合が...


「行けるように頑張るね」

送信ボタンを押しながら、哲也は自分の嘘に苦い表情を浮かべる。


午後、哲也は若手社員の育成会議に参加する。


「若い頃の自分を思い出すよ。あんなに情熱的だったのに、今の自分は...」


会議後、哲也は窓際に立ち、夕暮れの街を眺める。成功と引き換えに失ったものの大きさを、今さらながら実感していた。


「このままでいいのだろうか...」


深夜、哲也はようやくオフィスを出る。帰り道、彼は公園のベンチに腰掛ける。静寂の中、初めて自分の心の声に耳を傾ける。


「変わらなきゃ。家族のために、自分のために...」


哲也は決意を新たに帰路につく。

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