278g

雨が静かに降り続ける。


窓を伝う雨粒が、室内の光を歪める。


天秤が、その中心でわずかに揺れている。


緋が、雨音に合わせるように静かに横たわる。


指が緋に触れる。期待と不安が交錯する。


湿った空気を纏い、冷たさを帯びている。予想より小さな曲線。


表面は滑らかだが、張りに欠ける。指で押すと、簡単に凹んでしまう。


もう少し強く握りしめたくなる。だが、それは許されない。


天秤の片方に、緋を慎重に置く。


反対側には、分銅が並ぶ。


200g。天秤が傾く。

50g。まだ軽い。

20g。近づいてきた。

5g。わずかな差。

2g。もう少し。

1g。


天秤が揺れる。不安定に、しかし確実に。


278g。


予想より軽い。期待より小さい。


緋は、天秤の上で静かに横たわる。深みのない色彩が、雨の冷気を吸い込む。


指が再び緋に触れる。なめらかさに欠け、弾力性も乏しい。

微細な凹凸が物語る失望。消えかかった生の痕跡。


裏返せば、切断面が露わになる。不完全な円。歪な形。

それでも、ある種の美しさがある。


かすかな香りが漂う。どこか物足りなさを感じさせる香り。

雨の匂いに紛れそうな、かすかな存在感。


278g。


失望を与える重さ。不完全な形。くすんだ色彩。


緋は、静かに横たわる。


その存在が、部屋の空気を重くする。時間が緩慢に流れる。


これでは足りない。だが、無駄ではない。

闇の中で、新たな探求への渇望が静かに燃え上がる。

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