325g

闇が深まる。


月明かりが窓から差し込み、天秤を照らす。


緋が、静かに天秤の上で息づいている。


指が緋に触れる。豊かで充実した質感。バランスの取れた大きさ。


天秤の片方に、緋を優しく置く。


もう片方には、分銅が並ぶ。


200g、100g、20g、5g。


一つずつ、丁寧に載せていく。


天秤が揺れる。静かに、しかし力強く。


325g。


予想を超える重さ。存在感のある重量。


緋は、天秤の上で輝きを増す。深みのある色が月光を吸い込み、深い艶を放つ。


指が再び緋に触れる。なめらかさと温かみ。微細な凹凸が物語を紡ぐ。


かすかな香りが漂う。力強さを感じさせる独特の香り。


特製の保存液に緋を静かに沈める。液体の中で、微細な振動が感じられる。



再び天秤に乗せる。


200g、100g、10g、5g、1g。


316g。


9gの減少。本質の濃縮。


色はさらに深まり、光を反射する艶が増している。


触れると、密度が増し、より充実した感触。


個性が際立つ。前の所有者の豊かな経験が、この緋に刻まれているかのよう。


316g。


理想を超える重さ。完璧な形。深まる色彩。


緋は、静かに輝き続ける。


その存在が、部屋全体を満たしていく。空気が濃密になり、時間が緩やかに流れる。


316g。


この瞬間、世界は新たな意味を持つ。


すべてが拡張し、すべてが可能性を秘める。


緋は、静かに存在感を放つ。

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