第29話 やべぇやつしか入れないの? このパーティ

 ──


 次の日。僕らはキラボシダンジョンへ行くために、ギルドで待ち合わせをしていた。確か集合の時間が12時だったはずだが、時間通りに来ているのはどうやら僕とヒナだけのようで……。


「……なんで二人だけなのよ」


「風華は百歩譲って分かるけど、るーたんは遅れちゃ駄目だろ……」


「配信者って時間守らないからね」


「偏見だろうけど、なんか分かる気がする……」


 そんな会話をしつつ、ヒナはスマホを開く。恐らく二人に連絡を取るつもりだろう……昨日、風華とも連絡先交換していたっぽいし。ヒナとだけ交換してたのは、きっと意図的だろうけどな……ってか今更だけど、本当に風華を信用していいんだろうか。少なくとも乃愛には絶対会わせたくないんだけど……。


「……もしもし、風華? まだ来ないの? うん、うん……え、まだ家!? しかも布団から出てないですって!?」


 隣でヒナの大声が聞こえてくる。どうやら風華はまだ家にいるらしい。まぁ、ちゃんと時間通り来るなんて思ってなかったので、想定内ではあるが……で。聞いたヒナは地団駄を踏みながら。


「ああー、もう! じゃあ住所教えなさい! 迎えに行くから!」


 そう言って……住所を教えてもらったのだろうか。書きなぐるようにメモを取り、勢いよく液晶画面をタップして、通話を切るのだった。


「……行くの?」


「待ってても来ないし、行くしかないでしょ! ほんっと世話焼けるわね!」


 「ふーん!」とヒナは腕を組んで、不機嫌そうに言うが……なんだろう。この一昔前のギャルゲヒロイン感は……ツンデレって言うのだろうか。こういう子が一番攻略しやすいんだよな。ヒナが将来悪い男に引っかからないか、僕は心配だよ。


 ……と、このタイミングでるーたんが合流して。


「ごめん遅れたー! 風華ちゃんは?」


「まだ家にいるんだと。それで迎えに行こうかって、今話してたところで……」


 そこまで聞いたるーたんは、指を鳴らして。


「おー、いいね! せっかくなら風華ちゃん家で配信してから、ダンジョン行こっか! 視聴者のみんなに風華ちゃん紹介したいし!」


「家で配信するのか? 許してくれるとは思えないけど」


「いや、させるわ。もう風華に拒否権なんてないんだから……」


「ヒナちゃん、めっちゃおこじゃん」


 ──


 そして僕らは移動し、風華に教えられた住所までやって来た。そこには高級そうな高層マンションが建っていて……え、本当にここで合ってるの?


「ここ?」


「ええ、ここみたい。風華って意外といいところ住んでるのね……」


「ま、優秀な探索者はお金持ちだからねー。S級なら尚更……」


「じゃあ、るーたんもお金持ちってこと?」


「まぁねー」


 るーたんはそうやってケラケラと笑いながら言う。まぁ探索しつつ、配信も同時にやってるしな。それなりに稼いでいるのだろう……それでヒナはるーたんが正直に答えたのが意外だったのか、腕を組みながら「ふーん」と。


「否定しないのね」


「うん。だって、金持ちの庶民アピールほど腹立つものないでしょ?」


「なかなか捻くれてるんだな……」


 その気持ちは分からなくもないけど……堂々と「自分は金持ちだ」と言われても、まぁそれはそれでイラッとくる人もいそうだけどな。じゃあどう答えるべきだろうか……金持ちからすればこの質問って、意外と八方塞がりなのか……?


 まぁ僕が金持ちになる未来は今のところなさそうだから、考えるだけ無駄かな……そんなことを思いつつ、僕らは運良く空いていたエントランスの扉を抜け……風華が住んでいる階まで上がり、インターホンを鳴らす。だが、当然反応は無くて……。


「出ないね?」


「……」


 まさかとは思いつつ、扉に手を掛けてみると……普通に扉は開いて。


「……開いてるんだけど」


「ホント不用心ねぇ……もう上がっちゃいましょ」


 そう言って、ヒナは家まで上がっていった。続けて僕らも家に入る……すると目に入るは、段ボールの山で。その上にはおかしの袋やペットボトル、服、本なんかが積み重なっていて……いわゆるゴミ屋敷が広がっていた。


 ま、ゴミ屋敷つってもまだ足の踏み場あるから、そこまで酷いものではなかったけど……でも、綺麗好きであろうヒナをドン引きさせるのは容易かったようで。


「……うわぁ。どれだけ散らかってるのよ……家が泣いてるわよホント……」


「ヒナちゃんは豊かな感受性持ってるね?」


「確かにこれは泣いてる気がする」


 言いつつ僕らは歩みを進め、遂にベッドで横になっている風華まで辿り着いた。そして僕らを見た風華は……未だ眠そうな半眼状態のまま声を出して。


「んー……ああ、ホントにみんな来たんだ……いらっしゃい」


「よくそんなこと言えるわね……いらっしゃいじゃないわよ。全然もてなせるような部屋じゃないわよ!」


「ヒナちゃん……かわいいね」


「この家は全然可愛くないわよ!!」


 そんな漫才みたいなやり取りの中、僕も会話に入って……。


「鍵くらい閉めとけよ、風華。泥棒とか入ったら危ないだろ?」


「はぁーい……」


 そんな中、るーたんは早速配信を始めようとしているようで……スマホを用意しつつ、風華に撮影許可を取っていた。


「ねぇ風華ちゃん、配信していい?」


「んー……好きにしたら……?」


 いいのかよ。ってか僕らを家に上げるくらいだし、汚い部屋を見せるのに抵抗がないんだろうな……やっぱり恥じらいを無くしたら人間ダメになっちゃうな。僕も帰ったら、ちゃんと家掃除しよう……で、ヒナは呆れたように。


「まさかこの格好でカメラに映るつもり? ほら、立って顔洗って着替えなさい」


「えへへ……ヒナちゃん、着せてくれるの?」


「じゃあ手伝うから……はぁ。女の子じゃなかったら、今頃警察突き出してるわよ」


 そうボヤきつつ、風華を脱衣所まで連れて行った。うん……やっぱヒナがいないと、風華の扱いは難しそうだ。今後ともヒナには風華のお世話係を頑張ってもらうしかなさそうだな……本人はすげぇ嫌がるだろうけど。


「……はい、みんなこんるーたん! 今日は新しい仲間の紹介配信だよ!」


 そしていつの間にか、るーたんは配信を開始させていた。同時にホログラフも出していたみたいで、見慣れたコメント欄が僕らの眼の前に現れた。


『きたああああああああああああああ』

『新しい仲間!!?』

『どこだここwww』

『ゴミ山じゃねぇか』

『るーたん家でも慎也お兄ちゃんの家でもないな』

『ってことは……ヒナちゃん!?』

『ヒナちゃん、頭痒いって言ってたのまさか……』


 なんというヒナへの風評被害。早く誤解を解いてやってくれ。


「ここは新しい仲間のお家だよ! 今、準備中で……あっ、来たみたいだね!」


 そして着替え終わったようで、風華とヒナがカメラの前に現れた。相変わらずヨレヨレの服で、ほつれた帽子も被り、目もまだ完全に開いてなかったが、ヒナがセットしてくれたおかげか、ギリギリ外を歩けるくらいの格好にはなっていた。


 ちゃんとおしゃれすれば美少女っぽいのに、なんかもったいない気がするな……まぁ余計なお世話だろうから、何も言わないけど。


『!?』

『女子だったのかよww』

『か、かわいい……?』

『僕はタイプです(鋼の意志)』

『小動物みたいでかわいいじゃん』

『住処まで真似しなくていいから(良心)』


「ふぁあ…………」


「ほら、風華! 挨拶しなさい!」


「……あ、どうも……浅羽風華っていいます。メインはタンク……かな」


「というわけで風華ちゃんが仲間に加わりました! 拍手!」 


『888888888888』

『念願のタンクだな、おめでとう』

『でも大丈夫なのこの子……?』

『また変なのが加わったなww』

『ダウナー系のミステリアスガールええやん』

『ミステリアスガールはゴミ屋敷住んでないから……』

『全員が自分だけまともだと思ってそう』


 ……ん? そりゃこのパーティで、一番まともなのは僕で間違いないけど。で「自己紹介も済んだことだし」と、るーたんは片手を上げて。


「じゃあ、早速キラボシダンジョン行こう!」


「んへぇ……もう少し寝ちゃだめ?」


「ダメよ。こういうのは引き伸ばせば引き伸ばすほど辛くなるんだから」


「…………」


 すると風華は無表情でヒナを見つめ続ける。猫目なのもあってか、猫にジッと見つめられ続けてる感覚だったのか……その視線に耐えられなくなったヒナは、大きな声を出しながらまた暴れて。


「ああ~! もう、今度部屋掃除してあげるから! だから今日は来なさい!」


「いいの……? えへへ……ヒナちゃん、好き……」


 そう言って風華はヒナを抱きしめた。ヒナは驚き呆れ照れ怒り……色々混じった表情をしながらもブツブツ言いながら、たどたどしく風華を抱きしめ返すのであった。


『あっ』

『あら^~』

『微笑ましい光景だなぁ(白目)』

『ヨシ、やっぱりヤバイ人だな!』

『やべぇやつしか入れないの? このパーティ』

『まともな人がヒナちゃんしかいないよ』

『ヒナちゃんも濃いキャラしてるはずなんだけどなぁ……』


「なんか……彼女に縋るヒモ彼氏にしか見えないな」


「ヒナちゃんの力で自立させてあげましょう」


『草』

『草』

『草』

『お前らも手伝えwww』

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