第26話 るーたんなら余裕でいけるやん……

 ──


 受付を後にした僕らは、また食堂へと戻ってきて……座りながら僕は、るーたんに琴花さんについて聞いてみることにした。


「なぁ、るーたん……あの人って何者なんだ?」


 そしたらるーたんはキョトンと。


「えっ? 何者って言っても、ただの受付のお姉さんだよ? ギルドが出来た頃からいるみたいで、ずっと私の面倒を見てくれてるんだー」


「へぇ」


 昔からいるなら情報通なのも納得……いや、あれは情報通のレベル超えてる気がするなぁ……そのクランにいる人すら知らないような情報を、ただの受付お姉さんが知ってるもんか? ユニークスキルのこととなると、更に秘匿性の高そうな情報なのに……。


 それでヒナはヒナなりの持論を展開して。


「言っちゃ悪いけどあの受付嬢、あんまり愛想は良くなそうだから……誰が相手でも態度を変えないるーたんに懐いてるのかもしれないわね?」


「そんな気はする。るーたん来たのに気づいて嬉しそうになってたし。明らかにみんな避けてる気はしたからな……」


 端っこに立たされてるのも、もしかしたら意図的なものだったのかもしれない……でもるーたんは、そんなこと全く気にしていなかったようで。


「え、そうかな? でもとってもいい人だよ! 仕事はちょっと適当だけど……あと休憩中もいつも一人で過ごしてるけど……」


 じゃあぼっちなの確定じゃん……同じように腫れ物扱いされてるるーたんに、シンパシーを感じてたのかもな……? まぁ琴花さんの話はこれくらいにしておいて。


「それで浅羽風華についてだけど。彼女について得られた情報は、『常時スキルを発動している』『猫耳が生えている』それを隠すために『帽子をいつも被っている』、いつも『眠っている』……」


「これだけ情報あれば、簡単に見つかりそうだけどだけどねー?」


「聞き込みすれば、有力な情報を得られるかもしれないわ!」


「だな」


 とりあえずここはヒナの言う通り、聞き込みをしてくべきだろう。僕らは立ち上がり、行動をすることにした。


「作戦開始だね!」「ああ」


 ──


 そして僕らは聞き込みを開始した。るーたんが近くにいるとみんないい顔しなかったので、僕とヒナが聞き込みを担当して……るーたんは直で風華っぽい人が見つからないかを探していった。


 だが意外にもこれといった収穫は無く……二時間ほど時間は経過していた。最初は風華を知ってそうな女性とかを狙って話を聞いていたが、もう今は手当たり次第声を掛けている状況である……僕は近くのベンチに座っている男性に話しかけた。


「すみません、浅羽風華って子知りませんか?」


「えっ? いや、知らないな……」


 普通ならここで引くところだろうけど、長時間で少しストレスが溜まってたのか……ヒナが追撃するように口を開いて。


「いつも帽子を被ってて、よく眠ってる子よ! 何か知らない?」


 すると心当たりがあったのか、男性は頭を捻らせて。


「ああ……アイツのことか……? でもそれ以上は何も知らないな……」


「……風華なら、恐らくギルド5階の喫茶店にいる」


「えっ?」「えっ?」


 僕らは同時に声のした方を振り向く。そこには30代前半くらいだろうか……短髪で髭を生やした、雑誌の表紙でも飾ってそうなイケオジがそこには立っていた。筋肉質で腰に長い二本の剣を差していることから、凄腕の探索者であるオーラは隠しきれていなかった……続けて男性は口を開く。


「アイツはいつもあそこでサボってたんだ。いるならどうせそこだろう……」


 僕がその男性の正体を聞く……前に、そのベンチに座っていた男が勢いよく立ち上がって。


「お疲れ様です、団長!」


「団長?」


 僕が言葉を繰り返すと……そのイケオジは笑みを見せ、少し照れくさそうに。


「ああ。俺は『リベリオン』ってクランの団長をやってるミナトっていうもんだ。昔風華とも組んでたことがあって……と言っても、二年前くらいの話だけどな」


「えっ、団長……!? すごい人よ、慎也!」


 興奮気味にヒナが僕を揺さぶってくるが、男性……ミナトさんは両手を振って。


「いやいや、やめてくれ。小さな弱小クランさ」


「でもS級の風華と組んでたんですから、腕は確かじゃないんですか?」


 僕がそう尋ねると、ミナトさんは目を伏せて。


「……風華にゃ敵わなかったさ。ユニークスキルなんてとんでもない物を持ってるし……俺より強いし、しかも自分勝手だから、言うことを全く聞いてくれなかった」


「……」


 ……おっとー? なんだか仲間にできるかどうかの雲行きが怪しくなってきたぞ。


「そんなんだから色々問題を起こして、結局俺のところからは脱退した」


 続けてミナトさんは僕らに向かって優しく……でも、忠告するように。


「君らは風華を仲間にする気だろう。やめといた方がいい」


 そう言った。僕は頷き、彼の瞳を見ながら答えて。


「ご忠告ありがとうございます……僕らはほとんど彼女について知りません。でも、それでも彼女の力が必要だと思ったんです」


「……」


「それに……僕らははみ出しものの集まりですから。多少は居心地いい場所になるんじゃないかなって思うんです。僕の勝手な想像ですけどね」


「……ん?」


 途中でヒナが疑問の声を上げたような気がしたが……まぁそれは空耳だったってことで。それで僕らが折れることはないだろうと判断したのか、ミナトさんは少しだけ考える素振りを見せた後。


「そうかい……ならこれ以上は口出ししないよ」


 そうやって言ってくれた。


「はい、ありがとうございます」


 そして改めてミナトさんは、風華のいる場所を説明してくれた。


「さっきも言った通り、恐らく風華は5階の喫茶店にいる。だけどそこは特殊な喫茶店で、特別な人しか入ることが許されないんだ」


「特別とは?」


「その喫茶店の入店が許される条件は……探索者ランクがA以上であることだ」


「……」「……」


 聞いた僕とヒナは目を合わせる……そして同時にこう思っただろう。


「るーたんなら余裕でいけるやん……」……と

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