第24話 『君たちは』ねぇ……
その琴花と呼ばれた女性は、近寄り難い雰囲気を出していたが……るーたんが来たのに気づくなり、人が変わったように笑顔になっていた。もしかしてるーたんのことを気に入ってるのだろうか……? で、彼女はカウンターから乗り出して話を聞いていて。
「うん、久しぶりー! 色々配信とかやってたから、中々来れなかったんだよー」
「まーだ配信とかやってんだ。黒歴史作る前に早く止めなー?」
「いやいや、もう数えられないくらい黒歴史あるから! だから配信しまくって、黒い過去を薄くしていく必要があるんだよ!」
「るーたんの場合、黒歴史に黒現在を上塗りしてるだけだけどねー?」
「新しい言葉作らないでよー!」
そして二人はガハガハと笑う……こういう知り合いと知り合いの知り合いが喋ってる時って、どんな顔して待ってればいいか分からないよね。ほら、ヒナも気まずそうにパーカーの紐イジってるし……早くこっちを紹介してくれ。
「それで……るーたん、後ろにいる人達は?」
「ああー、この二人は慎也くんとヒナちゃん! 私の新しい仲間なんだー!」
「こんにちは」
気を使って僕らの方に話を振ってくれたので、軽く挨拶をする。続けてヒナも。
「……よっ、よろしく頼むわ!」
ヒナは僕の背中に隠れるようにして言った。ひょっとして怖がっているのだろうか? まぁヒナは内弁慶気質なところあるし、こうなるのも仕方ないか……でも僕との初対面の時は、最初から呼び捨てしてたんだけど。舐められてたんかな……?
それで受付の琴花さんは僕らを交互に見た後、ヒナの方を見て。
「そこの子は知ってるよ。ナビの吹春ヒナちゃんよね?」
「えっ、認知されてる……!? やっぱりアタシ、そんな有名だったのね……!?」
「あっ、うんまぁ…………」
琴花さんは気まずそうに言葉を濁す……予想だけど、ヒナを知ってるのは探索者からの愚痴とか、クビにされまくってるっていう噂とか、多分マイナスなことで知ったんだろうな……隠してくれるだけありがたいや。
「それで……そっちの子は初めて見るけど。多分ここにもあんまり来ないよね? 慎也くんは新人さん?」
そして誤魔化すように、僕へと話を振ってくる。僕がこのギルドに来るようになったのは本当に最近からなので、知らないのも無理はないだろう。るーたんの配信を見ていないのなら尚更……軽く僕はこうなった流れを説明した。
「いえ、数年前から探索者やってます。とあるアイテムを探していたところ、るーたんに見つかって仲間にスカウトされました」
「へぇ、それは災難だったねぇ」
半笑いで琴華さんは言う。るーたんも何か口を挟みたそうにしていたが、何も言えずにいるようだった。るーたんが好き放題言えない相手ってのも珍しいかもな……で。琴花さんは続けて、僕らに向かって優しげな口調で。
「……この子さ。とってもワガママで、失礼なことばっかりするけど……本当は心優しい子だからさ。どうか君たちは見捨ててあげないでほしいな。……ま、これは私の勝手なお願いだけどねー?」
「……はい」「もちろんよ!」
僕らは琴花さんの言葉に頷く……『君たちは』ねぇ……。
それでるーたんは恥ずかしいのか、言葉を打ち消すように大声で。
「もー!! そんなこと言わなくていいから!! それより私達、琴花ちゃんに聞きたいことがあって来たの!」
「へぇ……私の情報は高いよ?」
「えー? じゃあ今度高いお肉も奢るからー! 飲み放題でもいいからー!」
「そう言われたら仕方ないなー。……で、要件は?」
「蒼龍の覇者ってクランから追い出された浅羽風華って子のことが知りたいの。琴花ちゃんはその子のこと知ってる?」
その言葉に琴華さんは「ああ」と一言、頷いて。
「それはもちろん。探索者カードのデータもあるし」
「ホント!? 見せて見せて!」
「それって個人情報じゃないの……? 見せていいんすか?」
僕の言葉に、琴華さんは手を振りながらケラケラと笑って。
「いいわけないでしょー。これは私が事務作業中に落としてしまったカードのコピーを、たまたま君らが拾ってくれたってだけだから」
「パチンコ屋みたいな屁理屈っすね……」
そしてそのまま琴華さんはファイルを開き、カードっぽい何かを取り出して……僕らの足元に投げる。それをすかさずるーたんは拾い上げ、甘ったるい声でカードを琴華さんに渡す素振りを見せた。
「これ、落ちてましたよー!」
「わぁ、ありがとね、るーたん!」
そんな茶番はさておき……僕とヒナも一緒に、その浅羽風華のカードの覗いてみた。るーたんはそのカードを上から読み上げていく……。
「浅羽風華……ランクS級。ジョブ『タンク』『ヒーラー』『アタッカー』……!?」
「み、三つも……!? そんなことがあっていいの!!?」
「声がデカいぞヒナ……それよりも気になるのは、このユニークスキル……『フェリナスノヴァ』ってやつだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます