第23話 情報通の人から聞いてみるべきだよ

 その中でも、真っ先に行動を起こしたのはるーたんで……彼女は席を降りて。


「ねぇねぇ、その話私にも聞かせてくれない?」


 その強面の男に屈することなく、そのテーブルに近づいてグイグイと話の中に入っていった。それで彼女に気づいた二人の男は、露骨に嫌な顔を見せて。


「うわっ、るーたんか……別に面白い話じゃねぇよ。お前も知ってるだろ? 蒼龍の覇者っていうS級クラン。そこにいるタンクがクビになったってだけだ」


「どうしてクビになっちゃったの?」


「まぁ……俺も噂話でしか聞いたことねぇけどよ。そいつ、ずっと寝てるらしいんだ。ダンジョン攻略中でも、暇さえあれば立って寝てるってバケモン……仲間を護るタンクのくせにそんなんだから、クビ切られたんだろうな」


 「はっ」と冷笑気味に男は言う。まぁ……病的なことじゃないなら、多分それは何かしらのスキルの反動じゃないかなぁと僕は勝手に予想する。さっきユニークスキルがどうとか言ってたし……一層、クビにされた彼女のことが気になってきたな。


「……もういいか? 後はお仲間と話してくれ」


「うん、ありがと!」


 そして面倒そうな顔をした男のことなど気にも留めず、るーたんは彼らにお礼を言って僕らの元に戻って来る……そして元気に手を挙げ、こう宣言するのだった。


「ということだそうです! 早速その子を探して、仲間になってもらえないか聞いてみよう!」


「お、おう……」


「るーたんって、意外と打たれ強いのね……」


 ──


 それから僕らは掲示板前で、何か彼女に繋がる情報がないかを探していた。歩きつつ、僕はこんなことを彼女らに聞いていて……。


「そういやクランって言ってたけど、それはギルドとは違うのか?」


「うん、違うよ。ギルドはこういう施設のことで、クランはそこにいる冒険者が自由に作れるチームみたいなもの……ギルドが学校だとしたら、クランがクラス、パーティが班みたいな感じかな?」


「なるほど」


「そう、だからクラスで一人ピアノが弾ける子がいるように、クランにも一人ナビが必要なのよ!」


 ふふんとヒナはドヤ顔で言う。ほとんど学校行ってないから、そのあるあるはあんま分からないんだけど……で、その言葉にるーたんは頷いて。


「そういう感じだね。もちろんナビだけじゃなくて、アタッカー、タンク、ヒーラー、サポーター……クランには最低一人は存在してると思うよ。ただ学校と違うのは……メンバーの入れ替えがあるってことかな」


「…………」


 それを聞いたヒナは少し顔を伏せる。まぁ会った時の言葉から察するに、彼女は様々なクランを追い出されてきたのだろう。そして少なからず、今いるこの場所も追い出される可能性はなくはないと考えているのだろう……。


 僕は彼女を安心させるため、こう口にしていて。


「……僕はエリクサーを探すこと、そして妹を喜ばすことが目的だ。だから今のところはメンバーを加えることがあっても、追い出すようなことは考えてないよ」


 この二人の力はかなり探索に役に立っているし……そして何より二人とも妹が気に入っている。これが大きいから、現状は追い出すことは全く考えていないのだ……で、それを聞いたるーたんは、笑いながら言葉を繰り返して。


「ふふ、今のところは、なんだ」


「ああ。乃愛が『るーたん嫌いになった』なんて言おうもんなら、即刻クビにする」


「え、ほっ、ホント……!? るーたんステッカー新しいの作らなきゃ……!!」


「……んふふっ」


 そんなるーたんを見て、ヒナは笑ってくれた。なんだかんだるーたんは、空気が読める子なんだよなぁ……まぁ即ち、空気が読めないと思う行動をしている時は、それはわざとやってるってことになるけど……考えすぎ?


「にしてもどこにいるんだろうな?」


 とりあえず僕は、そのクビにされた少女へと話を戻す。このままだと見つけられないと思ったであろうヒナは、こんな提案を出してきて。


「もっと情報を集めるべきじゃないかしら? 例えば、そのクランに所属している人に話を聞いてみるとか」


「S級が僕らと喋ってくれるもんかねぇ……」


 S級クランの実態はよく知らないが、こんなクランにすらなっていない僕ら……しかもダンジョン配信なんかやってる僕らに、話をしてくれるとは思えなかった。そもそもこのギルドに来るかすら分からないというのに……で、るーたんは僕に続けて。


「うん、それはやめたほうがいいよヒナちゃん。強いクランに所属してる人って、みんな腐ってるから」


「主語がデカいんだよなぁ……」


 ……とは言ったものの、内心僕はるーたんと似たようなことを思っていた。るーたん達と一緒に行動する前、僕はたまーにダンジョンで強そうなクランと何度か遭遇したことがあるのだが……どれも態度が良いと思える人はいなかった。


 まぁ生死が掛かっているダンジョンで、ヘラヘラしている人の方がおかしいのは百も承知だけど……にしても僕の話は誰も聞いてくれなかった。一人でダンジョン探索してエリクサーを探してる、って言っても誰も信じてくれなかったし。


 だからダンジョンで誰か見かける度、僕は姿を隠すようになったんだよな……多分そっちの方がウィンウィンだし。


 それでヒナはちょっと呆れたように。


「そんなクランにいた人を誘おうとしてるのよ? それはいいの?」


「大丈夫! そういうとこから追い出されるってことは、私達と似たような人ってことだから信用できるよ!」


「そういうもんなの?」


 まぁ理屈はさておき……クランからの引き抜きじゃなくて、クビにされた人をスカウトするのは別に問題にはならないだろう。


「で、どうやって探すか……」


「ふふ、こういうのは情報通の人から聞いてみるべきだよ」


「情報通?」


 そのままるーたんは「ついてきて」と僕らに声を掛け、ギルドの受付まで移動し……そこの一番端っこで、暇そうに突っ立っている金髪の受付嬢の前まで歩いていく。そしてその女性に気さくに話しかけるのだった。


琴花ことかちゃん、会いに来たよ!」


「……おー? るーたんじゃん。元気してた?」

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