第20話 愛してるからだよ
──
「乃愛ー、起きてるのかー?」
言いつつ僕は乃愛の部屋の扉をノックして開ける。そこにはベッドで横になっている乃愛の姿が。電気も付けたまま横になっていて、顔も少し赤くなってることから……急に発症したんだなと判断した僕は、急いで乃愛の下へと駆け寄る。
「乃愛、大丈夫か?」
「……ん、慎也にぃ……配信は……?」
そんな状況だというのに、乃愛は僕の配信の心配をしていた。きっと途中まで見てくれていたのだろう……僕は乃愛を安心させるため、嘘を交えて説明して。
「疲れたからもう終わったよ。それより乃愛は大丈夫か? 熱……はありそうだな」
乃愛のおでこに手を当てながら言う。症状が悪化すると、乃愛は発熱してしまうのだ……最近は調子良さそうだったから油断してた。僕は薬が入ってる引き出しを開きながら、乃愛に尋ねて。
「薬はもう飲んだ?」
「ん……」
乃愛は小さく首を横に振る。なら一旦飲ませないとな。僕が水を持ってこようと、部屋から出ると……さっき配信に使っていたドローンが廊下を飛んでいた。
「……なんで?」
……と一瞬思ったが、そういえば僕は追尾機能を切っただけで電源を切っていなかったことを思い出した。次はまた探索モードにでもなっているのだろうか……今すぐ止めてやりたかったが、それよりも乃愛のことが最優先だ。コイツは後でいい。
僕はドローンを無視してコップに水を汲み、それを持ってまた乃愛の部屋まで行く……そしたらドローンも一緒に部屋に入ってきた。
「いや、来ないでいいから! ちょっとお前はあっち行ってろ!」
『…………』
そしたらドローンは僕の言葉を理解したのか、気まずそうに『ブイーン……』と音を鳴らしながら、高く天井ギリギリの位置まで飛ぶのだった……いや、そこまで気遣ってくれるなら出ていってくれよ。
「はぁ……まぁいいや。配信は終わってるし……ほら、乃愛。水持ってきたぞ」
「ありがと、慎也にぃ……」
そう言って乃愛は起き上がり、水と一緒に薬を飲む。そしてベッドに置いたままにしているタブレットに視線を移しながら……。
「最後まで慎也にぃの配信見たかったけど、ちょっとキツくなって……」
「いいって、無理すんな。それにいつでも見れるんだろ? アーカイブってやつで」
「……でも、生が一番いい。みんなの反応も見れるし、一体感あって楽しい」
「そっか。リアルタイムで盛り上がれるのが、配信の良いところなんだな」
「そ……」
そう言って乃愛はまた横になる。ひょっとしたら僕がドタバタとドローンと戦っている時も、調子はあまり良くなかったのかもしれない……だったら悪いことしたな。
「……よし、じゃあ今日はもう寝な。何かあったらお兄ちゃん呼んでくれ。すぐ行くから。寝てても一瞬で起きるから。なんならお兄ちゃん廊下で寝てもいいから……」
「慎也にぃ」
「なんだ?」
「…………」
すると乃愛は無言で、優しく僕の裾を引っ張ってきた。
「もう少しいろってこと?」
「……」
乃愛は頷く。ああ、どうしてこの子はこんなにも可愛いのでしょうか……「ああ、乃愛、可愛い!! 好き!! 結婚してくれ!!!!」と叫びたい衝動に駆られたが、その気持をグッと堪えて……冷静を装いつつ、僕はこう口にして。
「ああ。寝るまで……いや、朝までいるよ」
「……」
聞いた乃愛は嬉しそうな表情を見せた……かと思えば、少し顔を曇らせて。
「…………ごめんね、慎也にぃ。迷惑かけちゃって。配信も途中で終わらせちゃったよね。のあのせいで……」
どうやら僕の嘘はとっくに見抜いていたらしい。僕は安心させるよう、首を横に振りながら乃愛の手を握って。
「何謝ってんだ。配信なんていつでも出来るし……それに僕は乃愛が全てだ。乃愛のためならどんな危険な目に遭ったっていいし、エリクサー探しだって、配信だってなんでもやるさ。乃愛が望むなら、他にも色々やる……」
「…………慎也にぃは、どうしてそこまでしてくれるの?」
「乃愛を愛してるからだよ」
考える素振りも見せず、僕はそう口にした。僕が特訓を続けて強くなったのも、エリクサーを探し続けてるのも、配信なんてものを始めたのも……全部乃愛のためだ。愛してるからこそ、僕は命懸けで戦うことが出来るのだ。
それを聞いた乃愛は、ちょっとだけ照れくさそうに。
「……ん…………のあも。慎也にぃ、好きだよ」
そう言って乃愛は目を閉じてしまった。それからすぐに寝息が聞こえてきて……寝たことを確認した僕は、愛を囁きながらゆっくり手を離した。そして布団を掛けて、優しく頭を撫でた後……相変わらず宙に浮いているドローンに目を向けた。
「……」
はぁ……やっとお前の相手が出来るな。とっとと捕まえて、部屋の外に追いやろう。僕は乃愛が目を覚まさないよう、音を立てずに手を伸ばして…………のっ、伸ばして…………。
「…………!!! ……ッ……!!!」
ギリギリ届かねぇ……! なんでこんな高く浮いてんだよ、コイツ!!! ってか避けただろ!! ……もしかして攻撃回避機能とかも搭載してるんだろうか……まぁダンジョン配信者用だしあってもおかしくないけど……。
「はぁ……」
じゃあ一旦捕まえる作戦はなしにして……手動で近づけようか。手動で操作できるモードもあるよな……? いや、普通ないとおかしいよな……調べてみるか。
そのまま僕はスマホを開く…………と、るーたんからの大量の着信と、メッセージが届いていたのに気づいて。
「……ん?」
嫌な予感をひしひしと感じながら、通知欄からメッセージを開く……するとそこには『配信付けっぱだよ、慎也くん!!』と書かれていて……。
「…………え?」
もう一度僕はドローンを見る。そしてそのままさっきの要領で、手を開くジェスチャーをすると……滝のように流れているコメント欄が目に入ってきて……。
『あ』
『あっ』
『草』
『気付いた!!!!??』
『慎也……お前ホントいいお兄ちゃんだな』
『イチャイチャ見てごめんな』
『俺も慎也のこと愛してるよ♡』
『ホントに愛してるんやなぁ……』
『早くスパチャさせろ!! おい!!!!』
「…………えっと。これ…………ずっと流れてた?」
『うん』
『うん』
『まぁ……w』
『バッチリ映ってたよ』
『愛してるからな』
『なんかいけないの覗いてる気持ちになった』
『表ではまだ妹の愛、抑え気味だったんだなw』
『ずっとラブラブしててくれw』
『ラブコメ見てるかと思った』
「………………~~~~~~!!!!!!!」
それを見た僕は…………声にならない声で叫び続けるのだった。
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