第18話 なんでドローンに一番苦戦してんだよ

「え、なんで?」


「それだったらヒナちゃんも慎也にぃの謝罪見れるだろうし……それに慎也にぃ、配信してくれるって言ったから。ならるーたんのチャンネルに出るだけじゃなくて、自分のチャンネルも作って配信しないと」


「ええ……」


 どうして配信でヒナに謝らなきゃならんのだ……でもまぁ。確かに配信するとは言ったけど、現状僕はるーたんの配信に出演してるだけだし。僕専用の個人チャンネルを作る必要はあるかもしれないな……配信するか分からないけど。


「まぁ……確かにチャンネルは作ってみてもいいかもな。僕だけでダンジョン行くときとかも、配信したら乃愛も見れるだろうし」


「うん、慎也にぃの配信もっと見たい」


 乃愛はまっすぐ僕の目を見て言う。そんな顔されたら断るわけにゃいかないな。


「分かった。じゃあチャンネルを作ってみるか。えーと……アカウント作成はどうやるんだ? 検索すれば出てくるか……?」


「…………」


「ん、グルグールアカウントが必要? どうやって作るんだ?」


「…………」


 そんな苦戦してる僕を見かねてか……乃愛は僕のそばまで来てくれて。


「……慎也にぃ、手伝うよ」


「ああ、ありがとう乃愛。お兄ちゃん機械には弱くて……あっ、別に戦ったら勝てるからな? 機械系のモンスターは電撃が弱点なこと多いから……」


「ふふっ……」


 そして乃愛の助けもあって、無事に僕は動画サイト『YooTube』のアカウントとSNS『つぶやいたーX』のアカウント作成、ついでにるーたんに買ってもらった撮影用ドローンとコメントを見る用のホログラフの設定を終わらせたのだった。


 その頃にはとっくにお昼過ぎてたけど。


「よーし、じゃあ早速配信してみるか? もうるーたん起きてそうだけど……」


「あ、待って。せっかくだし夜に配信したほうがいいよ。見る人も増えるし」


「別にヒナに謝るだけだから、多くの人に見てもらう必要ないんだけどなぁ……」


「…………」


 乃愛は何も言わなかった。もしかしてヒナに謝ってほしいってのは建前……というか、そこまで重要じゃなくて。本当は僕に配信してほしかっただけなのだろうか……? まぁなんでもいいけどさ。僕は乃愛のためなら何だってするから……。


「分かったよ。夜にやってみる」


「ん……」


 そう言うと乃愛は、少し嬉しそうに頷くのであった。


 ──


 そんなわけで夜。僕は配信をする前に、乃愛に作ってもらったつぶやいたーXのアカウントで、配信するという告知を呟いていた。もちろんこれは乃愛からのアドバイスで……最初は全く反応が無かったが、るーたんが拡散してくれたことにより、僕のフォロワーとチャンネル登録者数は一気に増えていった。るーたん様々である。


「よし、じゃあ時間になったし、配信してみるか」


 せっかく用意したならと、僕はスマホではなく撮影用ドローンを使って配信をしてみることにした。るーたんはAIとか搭載している高性能なドローンを買ってくれたみたいだけど……家で使っても大丈夫かな。壁に穴とか開かないよね?


「えーっとドローンの電源を押して……で、スマホで配信開始を押してっと……」


 すると数秒後、ドローンはふわりと宙に浮かんで……部屋を彷徨いだした。


「なんで!?」


 ひょっとして索敵モードとかになっているのだろうか……? それとも安全に飛行出来るように、周囲をスキャンしているのだろうか……はぁ。まぁいいや、とりあえず先にコメント用のホログラフを開いてみよう。


 僕はるーたんがやっていたように、手を開くジェスチャーをする……すると見慣れたコメント欄が、僕の眼の前に現れて。


『慎也にぃきたああああああああああ』

『いきなり始まってて草』

『草』

『草』

『wwwwwwwwww』

『ドローンくんウロウロで草』

『慎也にぃのお家ダンジョンかな?』

『全然顔写んなくて草』


「ああ、配信はちゃんと出来てるみたいだな……ってかドローンが言う事聞かなくて大変なんだよ。誰か知ってる人いないか?」


 早速僕はドローンの対処法を聞いてみる……すると有識者っぽい人が現れて。


『初期設定だと探索モードなってるから、雑談したいなら「自動追尾モード」にすればいいよ。まぁドローンで雑談配信する人とか基本いないけどな』

『お、有能コメきた』

『だってよ』

『るーたん:wwwwwwwwww』

『るーたん爆笑中! るーたん爆笑中!』

『草』

『これを見越してのドローンプレゼントだった……?』

『お前配信の才能まであんのかよ』


 るーたんには今度電撃喰らわすとして……自動追尾モードか。それを押したらとりあえずはいいらしい……僕はジャンプしてドローンを捕まえようとする……。


「ふっ、ふぅっ! んっ、ふうっ!!」


『草』

『草』

『草』

『かわいい』

『猫かな?』

『こっちドローン視点だから躍動感すごいww』

『家の天井高いのが仇になったなwww』


 なんか笑われてるみたいだが、そんなの気にせず僕は飛び続けて……そしてようやく飛行しているドローンをキャッチすることに成功したのだった。


「はぁ…………手こずった」


『ナイスキャッチ』

『慎也にぃの貴重な苦戦シーン』

『なんでドローンに一番苦戦してんだよ』

『イレギュラーと戦ってる時の方が時間短かったぞ』

『慎也お兄ちゃんが飛び続ける耐久動画ください』

『「慎也にぃが吹っ切れた」作って』


 そしてそのまま僕はドローンの液晶パネルを押して、『自動追尾モード』を選択した……丁度その時、僕のドタバタ音を聞いてか、乃愛が部屋からやって来て。


「慎也にぃ、大丈夫そ……?」


「あっ、乃愛!! 今来ちゃダメだ!!」


『あ』

『あ』

『あっ』

『まずい』

『のあちゃん!!?』


 だが僕の叫びも虚しく……ドローンのカメラは乃愛を捉えていたみたいで。ドローンはふらふらと飛んで……乃愛の顔の目の前で止まるのだった。


「あっ」


「…………」


『草』

『かわいい』

『かわいい』

『可愛すぎる!!!』

『なんだこの美少女!?』

『慎也……お前羨ましすぎる』

『顔面偏差値高すぎる』


 おそらく配信には、画面いっぱいの乃愛の姿が映っているのだろう……ああ、やっちまった。乃愛の可愛さが世界にバレてしまうじゃないか…………でも乃愛は逃げる素振りも見せず、ただボーッといつものような落ち着いた表情のまま……頭を下げながら、こう言うのだった。


「……慎也にぃの妹ののあです。皆さん、お兄ちゃんをよろしくおねがいします」


『かわいい』

『丁寧』

『えらい』

『めっちゃとろけるボイスでかわいい』

『もう慎也にぃじゃなくて乃愛ちゃん映してくれ!!!』

『もうこれ慎也にぃいる?』

『いらない』

『乃愛ちゃん専門チャンネル作ってください!!!』

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