第17話 慎也にぃも配信したらいいんだよ

 ──


 それから僕らは入口で配信の締めの挨拶をして、今日のところは解散となった。アイテムの換金は後日行くようで、「その時も配信しよう!」とるーたんは意気揚々と言っていたが……僕はやめといた方がいいと思うんだけどなぁ。


 お金を持ったことを知った悪い人が、僕らを襲ってこないとは限らないし……まぁ僕は返り討ちにするから大丈夫だけどさ。ヒナとか心配じゃん? いつでも守ってやれるとは限らないし……。


 あっ、魔導のペンダントは盗まれたらまずいってことで、探索後は僕がペンダントを回収しておいたよ。僕とるーたんが背後にいるのを知った上で、盗んでこようとするやつなんていないだろうけど……まぁそれだけ価値ありそうだからなぁ。警戒するに越したことはないだろう。


 ──


 そんなわけで次の日。今日は休日なので、愛しの我が妹と共にゆっくりと朝食を食べながら、昨日の配信について感想を聞いてみることにした。


「乃愛、昨日の配信どうだった? 面白かった?」


「…………」


 そう言うと、乃愛は冷ややかな視線を僕に向けてきた……えっ、えっ? なんでそんな目するんだよ乃愛!? 頑張ったよ? お兄ちゃん結構頑張ったよ!?


「……慎也にぃ。昨日ヒナちゃんにひどいことしてたでしょ」


「……あ~」


 どうやら乃愛は、ヒナを雑に扱ったことに対して腹を立てているようだった。まぁ確かにナビの技量を確かめるため、結構酷使しちゃっていたからな……乃愛と(見た目は)同年代のヒナを酷使しているお兄ちゃんを見るのは、あんまり気分の良いものではなかったのだろう。


「ああ、それはごめんな……でも、いくら非戦闘員とはいえ、ヒナもダンジョン探索者だからさ。辛い目にだって遭うことはあるよ」


 ダンジョン配信なんてものが出てきてから、ダンジョンは生活の身近なものになっているみたいだけど……ダンジョンは危険な所で、常に死が隣り合わせだってことを忘れてはいけない。大々的に報道されてないだけで、怪我人や死人は毎日出ているのだ。そのことはヒナも乃愛も分かっているとは思うが……。


 でも、それを聞いた乃愛は更に頬を膨らませて。


「でも、慎也にぃ。ヒナちゃんのこと、のあと比べてどうこう言ってた。そんなこと言われたら誰だって傷つくよ」


「…………それは弁明しようがないな。ごめんよ」


「のあじゃなくてヒナちゃんに謝って」


「それはそうだよな……」


 言いつつ、箸を進める……そして水を飲もうとした所で、また乃愛が口を開いて。


「……いま」


「今!?」


「うん、いま謝って」


 そ、そんなご冗談を……でも乃愛の目はまっすぐ僕の瞳に向いていて……あっ、これちゃんと謝るまでまともに口聞いてくれないやつだ。乃愛にこんな冷たいままでいられるのは、お兄ちゃん耐えられるわけがないので……。


「分かった……謝るよ」


「ん……」


 朝っぱらから、ヒナに謝ることを決意するのだった。まぁいきなり謝っても、普通に気持ち悪がられるだけだと思うけどなぁ……もうヒナのドン引きする声が想像出来るよ。妹が謝れって言うから~って言ったら、ヒナも納得するだろうか……そうなると次は乃愛が納得しなさそうだけど。


 そんなことを思いつつスマホを開くが……ここでヒナと連絡先を交換していなかったことを思い出した僕は、視線を乃愛に向けて。


「……ってか僕、ヒナの連絡先知らないや。るーたんに聞こうかな」


 昨日るーたんはヒナと連絡先交換していたのっぽいので、彼女に聞けばおそらく分かるだろう……と思った僕は、一旦るーたんへと電話してみたが……。


「出ねぇ……寝てるのか?」


 何コール鳴らしても、るーたんは応答することなかった。それで出ないことは分かっていたかのような口ぶりで、乃愛はこう言って。


「るーたん、昨日も帰ってから配信してたからね」


「どんだけやってんだよアイツは……」


 僕は頭を抱える……寝る間も惜しんで配信なんてしてるから、配信者はこんな生活リズム狂うんだよ……はぁ。もう出ないと判断した僕は電話を切って「もう今度謝っとくからそれでいい?」と乃愛に伝えてみたが……乃愛は首を横に振って。


「だめ。のあの前で言わないと、言ったか分からないから」


「ええ……じゃあどうすればいいんだよ?」


 まさか乃愛をギルドに連れていくわけにはいかないし、家には上げたくないし……とか考えていると。珍しく乃愛は口元を緩ませながら、こう口にして。


「のあ、いいこと考えた」


「えっ?」


「慎也にぃも配信したらいいんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る