病弱な妹のためにダンジョンで秘薬を探していたお兄ちゃん、その様子を人気配信者に撮影されバズってしまう。～通話しながら片手でS級モンスター倒してて草～

第15話 『のあ：あげません。』

『全部！？』

『全部ってなんだよそれ』

『どういうことなの……？』

『チートや！　そんなんチートやん！！』

『終わりだ──』

『全属性効かない敵とかクソゲー過ぎるだろ！！！』

『ゲームじゃなくて現実なんだよなぁ……』

　コメ欄も僕らと同様に動揺していて（ダジャレではない）、対処法を見いだせずにいるようだった。僕は剣に溜まった電撃を解除しながら、ヒナにこう尋ねて。

「なぁ、全部って……火とか水とか、斬撃、物理も含めた全部の攻撃か？」

「ええ……アタシも自分で言ってて信じられないわよ」

「じゃ、じゃあどうするの！？」

「えっと……こういう時は何か固定ダメージ与えられる技とか、無属性技とか……」

「……」「……」

　聞いた僕は、るーたんと視線を合わす……言葉を交わさずとも、お互いそんな便利なもの持っていないことは分かっていた。それにヒナも気づいたみたいで。

「……無さそうね。じゃあアタシが電撃の無効耐性を打ち消してあげるわ」

「そんなこと出来るのか？」

「ええ、耐性打ち消しのスキルは大体持ってるわ。基本使わないし、時間掛かるけど、やっと役に立つ時が来たみたいね……！」

　そう言ってヒナは鎧の剣士に手を向けて、解除スキルの発動準備をし始めた。おお、こんなにもヒナが頼もしく見えるなんて……今度アイスでも奢ってやるからな。

「……！」

「おっと、やる気か？」

　それで僕らが何かしているのを見て、鎧の剣士は攻撃を仕掛けてくるが……剣を振るスピードは遅く、避けるのは容易かった。一応僕もカウンターで、鎧の剣士に剣を振るってはみたが、全くダメージは入っていないようだった。

「確かに攻撃は入らないけど、これなら耐えられそうだ。ヒナの打ち消しが完成するまで待機だな」

　言いつつ、僕は攻撃を避けることに専念する。コイツは耐性は凄いかもしれないが、攻撃速度は下層にいるモンスターよりも遅いな。これなら目を瞑ってでも避けられそうだ……まぁ流石に初見モンスター相手に、そんな舐めプはしないけれど。

『すげぇ避けてる！？』

『無駄のない避け』

『いいぞ、慎也にぃ！』

『まるで遊んでいるかのようだ』

『一目でお兄ちゃんの方が格上って分かるなｗ』

　そのまま僕は避け続ける。それでこのままだと攻撃が当たらないと判断した鎧の剣士は、僕を狙うのをやめて全体攻撃である『毒霧』を繰り出してきた。

「こんなのも使ってくるのか……」

　まぁ僕は毒耐性持ってるから、そんな軽い毒技じゃなんともないんだけど……。

「……ッ、ゲホゲホッ、ゲホッ！」

「あっ、ヒナちゃん！　大丈夫！？」

「へっ、平気よこのくらいっ……！」

「…………！！」

『あ』

『あっ』

『やべぇ、全体攻撃か！？』

『毒状態か……！？』

『ヒナちゃん大丈夫！？』

『俺らゲームで感覚麻痺ってるけど、普通に毒ってやべぇよな』

『死ぬこともあるからな』

　ヒナが咳き込んでいるのを見て、僕は少し動悸がした……その苦しそうに咳き込むヒナの姿が……症状が悪化してる時の乃愛と重なってしまったんだ。

「…………」

　……ああ、そうだよな。今は僕だけじゃなくて、仲間もいる。僕だけが良くたって、仲間が傷つくようじゃ……こんな小さな女の子一人護れないようじゃ。お兄ちゃん失格だよな、乃愛。

「ヒナ！　これを飲め！」

　僕は急いでヒナに駆け寄り、ポーチに入れていた解毒剤を飲ませた。

「……！　……っ、はぁ、あっ、ありがとう、慎也……！」

「礼なんかいい、そのまま解除を頼む！」

「……ええ！」

『ふぅ～～』

『危ねぇー！』

『さすが慎也にぃ』

『判断が早い！』

『ちゃんと解毒剤とか持ってるんだな』

『まぁ回復系のスキルなんも持って無さそうだし……』

『それでよう生きてこれたわ』

　一応僕は最低限ではあるが、体力回復アイテムや状態異常回復アイテムは常備している。一人でダンジョンにいる時に動けなくなるってことは、それはもう死を意味するからな。救援もアテには出来ないし。

　それでるーたんもヒナに攻撃を向けまいと、鎧の剣士の注目を集めるように正面に立って、煽るような口調で挑発を続けて。

「私も手伝うよ！　……ほらほら鎧のおじさん、こっちおいでぇ～？　ええ～？　そんなスピードでしか攻撃出来ないのぉ～？　おっそぉ～、だっさぁ～♡」

「……なにその口調」

「ん、俗に言うメスガキってやつ……慎也お兄ちゃんはこういうの嫌い～？」

「嫌い」

『草』

『草』

『即答で草』

『本当に不快そうで草』

『ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ』

『マジでゴミを見る目してんのよ』

『本当にこういうの好きな人いるの信じられなそう』

　いや、信じられないよ。こんなのが好きな人が存在するなんて、僕は信じたくないですよ……で、るーたんは鎧の剣士の攻撃を避けながら、余裕そうに僕に話しかけてきて。

「え～？　乃愛ちゃんにこうやってバカにされたくないの？」

「当たり前だろ……お前、乃愛に変なこと吹き込んだら、電撃喰らわすからな？」

「ほうほう、わからせの素質はあり……と」

「お願いだから日本語喋ってくれ」

『草』

『草』

『なんでコイツらダンジョンで漫才してんだよｗｗ』

『※新種モンスターのボス戦です』

『さっきまで焦ってたとは思えないな……ｗ』

　で、そんなやり取りの末……遂にヒナの解除スキルが完成したらしく、鎧の剣士の周りに黄色い壁が壊れるようなエフェクトが見えて。

「……はぁっ！　『電撃ガードブレイク！』　これで敵の電撃耐性が破壊されたわ！　慎也、やっちゃいなさい！」

「ああ！」

　その合図で僕は奴に駆け寄り……至近距離で左手を向け、高威力の電撃スキルを発動させた。

「『ネオ・サンダー！！』」

「グッ──！！！？」

　刹那、鎧の剣士は爆散して消滅した。おお、本当に攻撃が通るようになってる……やっぱりヒナって物凄く優秀なのかもしれない。それで、討伐を確認したるーたんは拍手をしながら、嬉しそうに飛び跳ねて。

「さすが慎也お兄ちゃん、一発だね！」

「まぁ……こいつの防御力はそんな無かったんだろ。耐性だけで飯食ってたとこある」

「○ケモンでいうところの○ケニンみたいな？」

「○ケモンは妹と一緒にやってるから、最新のやつしか知らないや」

「おお、珍しいタイプ」

『俺らと全く逆で草』

『良いお兄ちゃんしてんなぁ……』

『妹が羨ましくなってきたぞ』

『俺の兄貴が慎也にぃならなぁ……』

『妹さん、お兄ちゃんを俺にください！』

『のあ：あげません。』

『草』

『草』

『草』

『本人降臨してて草』

『いつの間にモデレーターなってんだｗ』

　何やらコメントが高速で流れているみたいだが、まぁそれは置いといて……こんな敵まで出てくるとはな。ヒナがいなかったら多分詰んでたし……近い内に僕も何か対処出来るような、無属性技でも習得しておくべきだろうか。

「とりあえず……ヒナがいなかったら詰んでたよ。ありがとう」

　僕はヒナにお礼を言う。そしたらヒナは強がって胸を張るが……。

「ふふん、アタシにもっと頼っていいんだから……」

　立ち眩みでもしたのか、その場に倒れそうになった。僕が支えようとする前に、るーたんがすかさずヒナの身体を抱きかかえて。

「おっと……ちょっとヒナちゃんに無理させ過ぎちゃったみたいだね。ワープも出来るようになってるだろうし、早く地上に戻ろ？」

「ああ。でも一応ドロップアイテムも確認しておこう。見たことない敵だったから、もしかしたらエリクサーを落としてるかもしれない……ごめんなヒナ、もう少しだけ待っててくれ。魔力回復ドリンクやるから」

　言いつつ、僕はるーたんにドリンクを投げ渡して、ドロップアイテムを確認する。その後ろでるーたんはヒナにドリンクを飲ませようとしているようで。

「ほらヒナちゃん、ドリンクでちゅよー」

「……子ども扱いするんじゃないわよ。自分で飲めるわ」

「…………」

　そんなやり取りを無視しつつ、僕はアイテムを漁る……魔石、毒の槍、鉄のガラクタ……ん、これは……？　僕は一つ異彩を放っていた、銀色の首飾りを拾い上げた。

「これは……装備アイテム？」

「ペンダントっぽいね、ごめんヒナちゃん最後にこれ鑑定してくれない？」

「鑑定も無しに、よくダンジョンとか潜ってたわね……？」

『ホントだよ』

『何持って帰るか分かんねぇだろｗｗ』

『多分慎也お兄ちゃんは適当に持って帰ってそう』

『鑑定あったら、多分ちゃんとお金持ちだよｗ』

『他パーティでは鑑定担当とかもいるらしいぞ』

　そしてヒナはるーたんに寄り掛かりながら、ペンダントを受け取って鑑定を発動させる。その時間が数十秒続いて…………次に声を上げた時には、さっきの呆れたような声とは打って変わって、驚愕の声に変わっていて。

「えっ、う、うそ……！？　こ、これ…………魔導のペンダント！？」