第13話 最大の罠?

 そして僕らはヒナの案内のもと、ウノダンジョンを攻略していた。相変わらず罠も敵も多くて面倒だったが、ヒナのお陰でハイペースで進むことが出来て……ついに最深部までたどり着いた。


「ここが最深部かな?」


「多分な。やっぱ前に来た時と同じで、ここにしょうもない宝箱があるだけで……やっぱこのダンジョンにエリクサーは無かったな」


 僕は中央に落ちてる宝箱の中を確認しながら言う。中には体力をほんの少し回復する『ふしぎなやくそう』が一枚入ってるだけだった。当然、苦労した割に合うわけもなく……はぁ、そりゃこんなとこに来る探索者がいないわけだ。


 でもまぁ、ヒナの実力を知れたのは良かったかもな。体力と魔力はちょっと……いや、だいぶ足りないが。それを補う程のナビの実力を持っていた。罠も一つも見逃さなかったし。もっと鍛えたら、化けるかもしれない……とか思ってると。


「ん? なに言ってるの慎也。ここが最深部なわけないじゃない」


「えっ?」


 ヒナから予想外の言葉が聞こえてきた。いやいや、もう完全に行き止まりだし……僕はこれ以上進めるところがないことを確認しつつ、コメントに目を通す。


『え?』

『行き止まりにしか見えないけど』

『まだ先あるの?』

『もしかして隠し通路とかあるんじゃないか!?』

『だったらアツいけどなw』


 隠し通路……まさか本当にそんなものがあるのか?


「ヒナ、まだ続きがあるのか?」


「ええ。ほらこっちの壁に反応がある……この中にモンスターがいるってことよ!」


 ヒナは宝箱の後ろの壁に手をかざしながらそう言う。うーん、素人目にはただの壁にしか見えないんだけど……。


「エネミーサーチ……うん、確かにここにはまだモンスターがいるみたいね!」


「ホントに!? でも、どうやって開けるの?」


「うーん、力尽くじゃないかしら?」


 そんな脳筋プレイで隠し扉って開くもんなの? そして二人の視線は、僕に向けられる……ああ、僕がパワー担当なのね……。


「……仕方ない。せっかくだから新技を見せてやろう」


 言いつつ僕は突き刺すように剣を構え、電撃を最大まで込めて……壁に向かって突進スキルを発動させた。


「はぁぁッ……!!『雷牙槍らいがそう』!!」


 そのまま勢いよく壁に突っ込む。その衝撃に耐えられず、壁は見事に爆散した……そしてその先には、確かにヒナの言う通り新たな道が続いていた。


「おお……マジで続きがあるとはな」


「うっわ~、相変わらず化け物じみた威力してるね。バケモンだよ、バケモン」


「褒めるならちゃんと褒めてくれ」


『草』

『草』

『まぁバケモンではある』

『火力アホ過ぎるんだよなぁ……』

『ヒナちゃんドン引きで草』

『なんだあの技!? かっけぇ!!!!』

『あんなんで貫かれたら死ぬわ』


 そんな光景を見たヒナは「冗談のつもりだったのに……」と小声でドン引いていた……ナビが冗談言わないでよ。本気にしちゃうじゃんか。


 そしてまた僕らはヒナを先頭に、新たな道を進んでいた。戦闘能力を持たないヒナが先頭で良いのかという疑問はあるが……まぁヒナは前歩きたそうだし、好きにさせてあげよう。万一があっても守れるだろうし。しかし……。


「なんか初めて見るモンスターばかりだな。他のダンジョンでも見たことないし」


「私も。ってか絶対こっち気づいてるのに、攻撃してこないね?」


 周辺で飛んでいる、羽の生えた人型のモンスターは僕らに見向きもせず、自由に飛んでいた。普通、モンスターは好戦的で、人を見るなり襲ってくるのが大半なんだけど……と、ここでヒナがアナライズを発動させながら。


「攻撃しない方がいいわよ。このモンスターはフェアリー型の希少種……危害を加えたら、きっと集団で襲ってくるわ」


「そっかー。でもドロップアイテムとか気になるけどなー?」


「まぁここは大人しく従っておこう。何が起こるか分からないしな」


「はーい」


『冷静やね』

『でもあのモンスターも気になるにゃあ』

『フェアリーとか見たことないぞ!?』

『ひょっとして凄いとこ来たんじゃないか?』

『フェアリー持ち帰ってくれ!!!!』

『無理でしょ』

『フェアリーよりヒナちゃんをお持ち帰りしたいンゴねぇ……』

『はい通報』


 そのまま道なりに進んでいくと、宝箱が落ちているのを見つけた。るーたんがそれを開くと、そこには大量の金貨が入っていて……。


「…………えっ?」


『あ』

『あっ』

『すっげえええええええええ!!!!!!』

『いいな~!!! え~!! いいな~!!!』

『ダンジョン配信、完』

『るーたん、視聴者プレゼント待ってるぜ!』

『いや実は俺、前からるーたんのこと可愛いと思っててさ』


「いや、プレゼントとかしないから……でもこんな宝箱、初めて見たよ」


「僕もだ……一周回ってちょっと怖いな」


「……………………わぁ」


「おい、ヒナの目が金になってるって」


『草』

『草』

『わ、ワァ……!』

『そりゃこんなの目にしたらねぇ……』

『まさか罠だらけダンジョンの正体がこんなのだったとは』

『これバレたら大変なことになるんじゃないか?』

『慎也にぃが根こそぎ全部持ち帰るから大丈夫よ』

『念の為アーカイブ消したほうが良いんじゃないか?』


「アーカイブ消す? まぁ、ここまで来れるやつなかなかいないだろ」


「そうだねー。この罠かいくぐってここまで来れる人は、きっと限られてるよ。それにここの宝箱はもう私達が回収しちゃうからねー?」


 そう言ってるーたんとヒナは夢中で金貨を回収する。僕はその光景を後ろから見ていた……しかし。こんなレアなアイテムが転がっているのならワンチャン、エリクサーもあるかもしれない。もっと探索してみよう……。


「………ってあれ、さっきまでいたフェアリーはどこ行ったんだ?」


「そんなのどうでもいいでしょー、慎也お兄ちゃんも回収手伝ってよー」


「…………」


 ……どうでもいい? いや、何か引っかかる……あんな雑に積まれた金貨に行方をくらませたフェアリー達、そしてあからさまな一本道。僕の長年ダンジョンで過ごしてきた勘が、ここは危険だと伝えてきているようだった。


「二人とも、そろそろ戻ろう」


「えっ? どうして?」


「なんだか嫌な予感がするんだ……」


 ……と、僕がそこまで言ったところで、背後からガシャンと何か閉まる音が。振り返ると……ちょっとやそっとじゃ突破できそうにない、いかにも硬そうな鉄格子が僕らの背後に現れていた。


『あ』

『あっ』

『あーあ』

『まずい』

『これは罠だ!!』

『釣られクマー』


「えっ……? こ、これって……?」 


「やっぱりな。ここが最大の罠だったってことか」

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