第12話 誰が重いですって!?

 ──


「ヒナ……魔力が少ないなら、最初に言ってくれ」


「グスッ……だっ、だってぇ……! そんなこと言ったら、ゼッタイ仲間にしてもらえないと思ったからぁ……」


 僕は倒れて動けなくなったヒナをおんぶしながら、ダンジョン内を進んでいた……今更だけど、『スキル』を使うには魔力が必要で(必要ないものもあるが)、持っている魔力量は人によって大きく異なる。


 僕もよく知らないが、魔力の消費量や回復量も人によって違うらしいから、魔力回復アイテムを使っても全く回復しない人もいるらしい……ちなみにダンジョンの外では魔法的な力が発動しないため、ほとんどのスキルは使えない。まぁこれにも例外はあるが。


『ヒナちゃん……』

『そんなことだろうとは思ったよw』

『まぁずっとあのペースでスキル使えたらチート過ぎるからなw』

『ヒナ生きてけないよぉ……』

『ヒナ13歳 魔力なし 素直さなし 可愛さ……あり』

『ならええか』 

『ええんか?』


 そんなおんぶしている僕を見ながら、るーたんは微笑んで。


「まぁまぁ、ヒナちゃんに無理させちゃったし。また元気になるまで、私達が守ってあげよ?」


「流石に僕だって、重り背負ったままだと戦闘は厳しいぞ」


「だっ、誰が重いですって!?」


「言ってねぇよ」


 そんな会話をしつつ、僕らは更に足を進める……一応背負われてふにゃふにゃになっているものの、ヒナはそこからでも僕らに情報を教えてくれて。


「……あっ、あそこ踏むと槍が生えてくるわよ」


「殺意高ぇなぁ……」


 言いつつ僕は勢いを付け、その場所をジャンプして飛び越える。ただその行動は、ヒナは予想していなかったみたいで……。


「えっ、わっ、わあぁーっーー!? ……ぐゅあっ! ……あっ、危ないわね!! どうして避けて進もうとしないの!?」


「だって、飛び越えた方が近道だし」


「一歩間違えたらアタシも貫かれるじゃない!!」


『草』

『草』

『怖えよww』

『ヒナちゃんを雑に扱うなww』

『いいぞもっとやれ(ヒナちゃんかわいそう)』

『逆だ逆』


 そして後ろからるーたんもその罠を飛び越え、僕らに近づいて……腰に手を当てたまま、僕を諭すように。


「こらこら、慎也お兄ちゃん。もっと妹ちゃんと接する時みたいに、丁重にヒナちゃんを扱わないと」


「妹と同じように……?」


「…………な、なによ?」


 僕は後ろを振り返って、ヒナの顔を見る。うーん……確かにヒナは可愛いし、守ってやりたくなる素質は持っているとは思うけど……。


「……それは無理だ」


「なんでアタシの顔見てから言うのよ!!」


 言いつつ、ヒナは僕の後頭部をベシベシ叩く。とりあえず弁明……というか、落ち着かせるために、僕はこう口にして。


「いや、ヒナが悪いとか言ってるんじゃない。妹には誰も敵わないから」


「ガチ過ぎて引くわよ……はぁ。変態シスコン慎也に背負われてるのは、間違いだったみたいだわ」


 そしてヒナは僕の背中から雑に飛び降り、また先導するように僕らの前を歩き出した。


「おいヒナ、もう少し休んどけって」


「もう大丈夫よ…………って、えっ?」


「どうした?」


 突然、ヒナは立ち止まってまたさっきのマップを開く。そこには、敵だと思われる赤いマークが緩やかに動いていて。


「強力な敵モンスターが一体、こっちに接近しているわ! もしかして、罠に反応したのかしら……?」


「分かった。ヒナは下がってろ」


「私達がヒナちゃん守ってあげるからね!」


 そして僕はヒナの前で、るーたんはヒナの隣で武器を構えた。


『急にカッコよくなるな』

『戦闘の時は頼りになるんだよなぁコイツらw』

『これ以上ないほどの安心感』

『へへっ、お兄ちゃんやっちゃってくだせぇ』

『のあ:慎也にぃ、ヒナちゃんケガさせたらゆるさないからね』

『妹も見てます』

『妹ちゃんオッスオッス』


 それで僕らが武器を構えていると、遠くから地響きのような音がして……眼の前に岩で作られた体をした、巨大なモンスターが僕らの前に立ちふさがってきた。


「おお、ゴーレムってやつか。久々に見た」


「さっさとやっちゃいますかー!」


 ……と、僕らが攻撃を仕掛けようとしたところ。


「待って! 『アナライズ』……この敵、物理攻撃は半減するわ! 電撃も効かないから注意して!」


 後ろでヒナが解析スキルを発動して、敵の情報を教えてくれた。


「へぇ、そんなのも分かるのか。じゃあ何属性が有効だ?」


「こいつは水が弱点よ! 水属性の技は使える?」


「いや、そんなの使えないから……まぁ半減でもいいか」


「えっ?」


 呟きつつ、僕は走り出してゴーレムに飛びかかる。そして……。


「ふっ、おらぁッ!!」


 奴の顔面に向かって、斬りかかった。


「グゴゴゴッ!!?」


「いいよ、慎也お兄ちゃん!」


 そして怯んだ隙に、るーたんが追加の投げナイフを放ってくれて。見事ウィークポイントの目玉にヒットしたようで、大きな音を立てながらゴーレムは倒れた。そして足元にはドロップアイテムが転がる。


「流石だな、るーたん」


「いやいやー、慎也お兄ちゃんならワンパン出来ましたってば~」


「まぁ、スキル使うまでも無いと思ったからな」


『うーん鮮やか』

『つっよ』

『あっけなくて草』

『こいつら連携上手くね?』

『長年ソロでやってた同士だからな』

『ええ、そういうもんか……?』

『普通にゴーレムはA級レベルでも苦戦する人はいるぞ……?』

『まぁイレギュラーと比べたらちょろいちょろい』

『イレギュラーと比べるのがおかしいんだよなぁ……』


 そんな僕らを遠目で見ながら、ヒナはドン引きしたようにこう口にして……。


「え、ええっ……? こ、これってアタシ必要なの……?」


『うん』

『いる』

『どうだろうね……?』

『ヒナちゃんは可愛い担当だから!』

『癒やし係だからいる』

『あの二人見てるとおかしくなりそうだからいる』

『脳筋バカ二人を見守ってやってくれ』

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