第11話 ヒナちゃんお風呂入ってる?

 それから僕らは数十分歩いて、目的の『ウノダンジョン』までたどり着いていた。通常、ダンジョンの入口は何人か探索者がたむろしていたりするのだが……ここには誰一人として人の気配はなく、閑散としていた。


「分かってたけど誰もいないな……」


「上級者でも避けるダンジョンだからねー。戦闘云々より、トラップに引っかかると命取りだし。私もここに来るのは久しぶりだよ」


『誰もいなくて草』

『入口から不気味だなぁww』

『このダンジョンの動画、全くないけどなんで?』

『みんな行きたがらないからな』

『よくこんなとこ来たよ』

『映像に映してくれるのは正直ありがたい』

『今日は探索者も配信見に来そうだね』

『同接増えそうw』


 ここで僕はコメントに目を通す……なるほど。確かに行ったことのないダンジョンの配信や動画を見れば、事前に敵やマップの理解も高まるし……他の人のダンジョン配信を見るのもありだろうか。


 ……でもまぁ。僕が行けないようなダンジョンを攻略してる人達は、配信なんかしてないだろうけどな。普通に手間だし、レベルの高い下層の情報は貴重だろうし……普通に情報も高値で取引されていそうだ。


「ふふん、アタシの力が発揮出来そうね!」


 そう言ってヒナは先頭で、ダンジョンの中へと入っていく。僕とるーたんも続けて、ダンジョンの石造りのゲートの中へと足を進めるのだった。


 ──


「うわっ、霧とかあったっけ?」


 ダンジョンに入るなり、濃い霧が僕らを包み込んで、視界を遮ってきた。これもトラップの一つなのだろうか……?


「これは多分……ランダムで発生するやつじゃないかな? でも困ったなー、これだと配信画面もコメントも見えないよ」


 隣でるーたんが不満げに言う。多分コメントも『見えないよー!!!!』みたいなもので埋まっているんだろうな。でも発生したものは仕方ない、早く進んで霧のないエリアまで移動しようと、先に進もうとすると……。


「待って! アタシならこの霧、消せるわ!」


 ヒナがそう言って、僕の足を止めてきた。


「えっ、本当か? 霧を消すスキルなんて聞いたことないけど……」


「ふふん、慎也が知らないだけよ。この世界には、数えられないくらいスキルがあるんだから……はぁっ! 『霧払い!』」


 ヒナがスキルを発動するなり、徐々に霧は捌けて……視界が開けてきた。そして二人の姿も見え、るーたんが出しているコメントも僕らの目に入るようになった。


『おっ』

『すげぇ、霧が消えていく!」

『ありがとうヒナちゃん!』

『すげぇけど限定的だなww』

『いや、これすごいぞ。常に霧があるダンジョン攻略出来るから』

『ひでんマシンかな』

『秘伝要員ヒナちゃんで草』

『まぁナビってそういうジョブだから……』


 確かにこんなスキルが沢山あれば、ダンジョン攻略もグッと楽になるかもな……思った以上に、ヒナは優秀なのかもしれない。そしてるーたんは彼女に抱きついて。


「わぁっ、ヒナちゃん凄い! こんなの始めてみたよ!」


「ふふん、ナビに必要なスキルは大体持ってるって言ったじゃない……」


 ……と言ったところで、ヒナは痛そうに頭を押さえる。


「……ん、どうした?」


「なっ、なんでもないわ! ちょっと頭が痒いだけよ!」


「…………」


 まさかとは思うが……霧を払っただけで、体力消耗したのか? まだ入って数分も経ってないっていうのに……まぁ。まだ気づいてないフリをしておいてやるか。それでるーたんは、そのままヒナの頭に顔を近づけて。


「えっ、ヒナちゃんお風呂入ってる?」


「入ってるわよ!! 失礼ね!!」


 そう言ってヒナは、るーたんを払い除けた……案外こいつ、デリカシーないのかもしれない。


『草』

『草』

『くさぁ』

『くっさぁ……♡』

『僕もヒナちゃんの頭皮嗅ぎたいです』

『変態もいます』


「……とりあえず助かった。次はトラップを探してくれ」


「ええ、任せなさい! 『フィールドサーチ!』」


 そしてヒナは前方に手を向けて、スキルを発動させる。それで何か反応があったのか、ヒナは数メートル先の地面を指差しながら。


「あー。確かに沢山仕掛けられてるわね。例えば……あそこ、トラバサミが埋まってるわ。何か投げてみて」


「うん、分かった! それーっ!」


 そして意気揚々とるーたんがナイフを投げると、『バチィィィン!』と勢い良く音を鳴らして、トラバサミはガッチリと締まるのだった。


「こわ」


『こわっ……』

『やばwwwww』

『なんてもん埋まってんだよwww』

『ワロエナイ』

『これ骨折れるって』

『こんなのが沢山埋まってるってマジ?』


 その勢いに、二人も絶句する……このダンジョン、こんな殺意高かったっけ。


「……いやー。これは流石にヒナちゃんいないと進めないね?」


「戦闘中とかだったら、僕も喰らってそうだな……」


「ふ、ふふん。あ、アタシのありがたさを思い知ったかしら……?」


「声震えてんぞ」


『草』

『そりゃこえぇでしょ』

『ヒナちゃんもう帰りたそうww』

『ヒナ「もうええでしょう!」』

『これはナビが重要そうだなぁ……』


 まぁ僕も警戒すれば、大体の罠は見破れるだろうけど……今日はヒナの実力を知りたいからな。一旦全部ヒナに任せてみよう。


「じゃあとりあえずこの調子で、この階層の全部の罠をサーチしてくれないか?」


「…………えっ?」


「あと敵の位置も表示してくれると嬉しいかも! マップに印付けてほしいな!」


「……え、ええ! 任せなさい?」


 そう言ってヒナはまた別のスキルか、空中に全体マップのようなものを表示させて……再びサーチ系のスキルを発動させた。


「それっ……! 『フィールドサーチ!』『エネミーサーチ!』」


 するとそのマップ上に、赤色のマークで罠や敵の位置が徐々に表示されていった。おお、これは凄いな。これがあれば、本当に楽に攻略出来るんじゃないか…………とか思っていた刹那、ヒナは力が抜けたように座り込んで……。


「…………ふにゃあ」


「え、おい、大丈夫か?」


「ちょ、ちょっと! ヒナちゃん、大丈夫!?」


『あ』

『あっ』

『ヒナちゃーーーん!!!!』

『これは魔力切れ?』

『っぽいねぇ……』

『ナビスキルは天賦の才はあったけど、魔力量は……』

『そりゃ魔力まで兼ね備えてたら、こんなとこ来ないよ』

『こ ん な と こ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る