第9話 僕のエリクサー探しも手伝ってくれよ
「……」「……」
そして僕とるーたんは無言で顔を見合わせる……えーっと。この子がナビ志望者? どう見ても小学生にしか見えないんだけど……と、僕が疑いの目で見ていると。その視線に気づいたのか、少女は口を大きく開きながら、僕のことを指差して。
「あー! 今、アタシのこと疑ったでしょ!?」
「まぁ……そりゃ疑うよ」
何度見ても小学生にしか見えなかった。そもそも冒険者にすら見えないし……うーん、もしかしてるーたんのファンとかかな。僕らが仲間を募集することを知って、つい遊びに来てしまったのだろうか。そう思うと、ちょっとだけ可愛く見えてきたな。
「うん。じゃあるーたん、この子にサイン書いてあげて。それで帰らせよう……」
「あー、おっけおっけ! じゃあ何か書くもの……」
……と、僕らがペンを探してるところで、またその少女は大声を出して。
「ちょっとー! いつアタシがサイン欲しいなんて言ったのよ!?」
「えっ? じゃあサインじゃなくて、写真がいい?」
「だから!! アタシはアンタ達の募集を見て来たって言ってるでしょ!?」
「……」「……」
そしてもう一度僕らは目を見合わせる……まさか本当に仲間になるつもりで来たのだろうか。確かるーたんはとんでもない内容で、ナビを募集してたはずなんだけど……もちろんそのことは、るーたん自身が一番分かっているようで。
「えーっと……キミ、お名前はなんて言うのかな?」
「アタシはヒナよ!
「ヒナちゃんかー! 私、ヒナちゃんのこと疑ってるわけじゃないけど、何か探索者ってことを証明出来るもの見せてくれたら、お姉さんとっても嬉しいなー?」
やはりるーたんは子どもの扱いに慣れてるのか、ヒナと名乗った少女に目線の高さを合わせてそう伝える。するとヒナは、斜めにかけていたバッグからガサゴソと雑に中を漁った後、小さなカードを僕らに見せてきて。
「あったわ! ほら、これ! 探索者カード!」
「探索者カード?」
言いながら僕はそれを受け取る……そこにはヒナの写真と、使える魔法スキルや探索者のランクなどが記されていた。へぇー、最近はこんなの発行してるんだ……そうやって物珍しそうに僕がカードを見てると、隣でるーたんが詳しく解説してくれて。
「慎也くんは知らないと思うけど、ギルドの職員さんにお願いしたら、こういうのを発行してくれるんだよ。これで依頼受けたり、店の商品が割引されたりするんだけど……でも驚いたなー。本当にこの子、優秀な探索者だよ」
「ふふん、だから言ったじゃない!」
褒められたのが嬉しいのか、ヒナは満足そうに胸を張る。まぁるーたんが言うなら、信じるけども……。
「……でも、探索者に年齢制限とかないの?」
「無いけど、未成年は成人してる人がいないとダンジョン行っちゃいけないことになってるよ」
「そうなのか。まぁ僕もるーたんもいるしそこは大丈夫か」
「るーたんは永遠の14歳ですー」
るーたんはベーっとしながら、可愛い子ぶって言う。そういやるーたんって何歳なんだろうなぁ……僕と同じくらいに見えるけど。ちなみに僕は18歳である。
「で……ヒナは何歳?」
「……今年で14になるわ!」
「13歳ね」
小学生……じゃなくて、中学生なったくらいか? まだ全然ランドセル似合いそうなものだけど……ってかこの子が、乃愛より年上ってことがまだ信じられないな……おっと。すぐに妹と比べるのは僕の良くない癖だな。
「でもなんで、こんなよく分からないところに応募しに来たんだ? 本当に優秀なら、もっと高待遇でもっと安全なパーティだって絶対あるだろうに」
すると痛いところを付かれたのか、少女は焦ったように視線を左右に動かして。
「そ、それは……えっと……そ、そう! アタシはるーたんのファンだから!」
「じゃあるーたんの好きな配信、10個答えてみて」
「えっ!?」
「はい走って!」
「フレンドパーク要素追加すな」
でもそんなるーたんの無茶振りに応えるように、その場で足踏みしながらヒナは口を開いて……。
「え、えっと……ダンジョンでおもらししたやつ!」
「最初がそれ!?」
「ええ、やっぱマジだったんだ……」
僕はドン引きの声を上げる……一周回って、なんか僕も気になってきたよそれ……で。そこから続くかと思ったが、ヒナの言葉は次第に籠もるようになって……。
「えっと、なんかでかいの倒すやつと、えっとあとは、あとは……」
「……はい時間切れ。やっぱるーたんのファンって訳でもないじゃないか」
「…………」
「何か理由があるんだろ?」
僕はそうヒナに問いかけた。続けて「怒ったりしないから大丈夫だよー」とるーたんの言葉もあってか、ヒナは徐々に本心を明かしてくれた。
「えっと……アタシはね。自分でも言うけど、とってもすごい。日本でTOP10には入るくらいすごいナビの才能を持ってるの」
「おお」
それはまた大きく出たな。
「で、でも……それ以外のことがてんでダメで。歩くとすぐに疲れるし……モンスターに攻撃されると泣きわめいちゃうし……怖いし。攻撃も何も出来ないから、守ってもらうしか出来ないんだけど、それが逆に負担だって、色んなパーティから追い出されてきたの」
「ああ……」
「それにアタシ、ちっちゃいからって、断られることも多いし。だから誰も仲間に入れてくれなくて、それで……!!」
そこまで言ったところで、ヒナの瞳から大粒の涙が溢れていることに気がついた。
「おー、よしよし、泣かないで」
るーたんはあやすように、ヒナの頭を撫でる。そんな光景を見ながら僕は。
「……まぁもちろん、追い出した人らの言い分も分かるけどな。いくらナビとはいえ、ダンジョンで全く戦えないのは致命的だし。それに幼いから心配する人がいるのも普通だろ。万が一があっても、責任取れないだろうし」
「ちょっと、慎也くん……!」
るーたんがこれ以上は黙っておけとでも言いたげに口を挟むが、このことはしっかりヒナには伝えなきゃいけないだろう。
「……で、つい最近出来た僕らのところまで来たと。もちろん本当にナビの力があるなら、仲間に加えることも考えるけど……ひとつ聞かせてくれ。どうしてダンジョンに挑み続けるんだ?」
僕は大切なことをヒナに聞いた。僕はエリクサーを探すため、るーたんは配信して視聴者を集めて配信を盛り上げるため……僕らにはダンジョンに挑み続ける理由があった。なぁなぁな気持ちじゃ続かないと思った僕は、ヒナにも相応の理由があるかを知りたかったのだ。
するとヒナは赤い目を拭いながら、こう僕に伝えてきて。
「アタシ……アタシは、強くないけど、ナビの才能はあるって、だから、それを使って、アタシもやればできるんだぞってとこを、みんなに見せつけて、それで……! パパとママを安心させたいの!」
「……!」
僕は息を呑む。そうか……当然だけど、この子には両親が存在するんだ。きっとこの子にナビの才能があったとしても、いつ死ぬかも分からないダンジョンには行かせたくないんだろうな。
「親はなんて?」
「とっても止められたけど……でもヒナが決めたならって、ダンジョン優先の生活をしてもいいって認めてくれたの。でも結果も出でないし、心配してるから……」
「そうか」
言って僕は歩みを進める……。
「ちょ、ちょっと、慎也くん!」
「…………ズズッ」
背後から鼻をすする音が聞こえる……不合格だと思ったのだろうか。そんな彼女を安心させるように、僕は振り返ってこう言って。
「……僕が守ればヒナは怪我することは絶対にないし、るーたんの配信カメラがあれば親御さん……いや、世界中にヒナの活躍が伝わる。丁度いいじゃん」
「え、えっ……!? じゃあ、行ってもいいの……?」
「ああ。僕のエリクサー探しも手伝ってくれよ、ヒナ」
それを聞いたヒナは顔を上げ、年相応の笑顔を見せてくれて。
「……う、うん! もちろん、もちろんよ!」
そう繰り返すのだった。
「ふふ、良かった! そうと決まれば、早速新メンバー加入配信だね~」
そう言いながらるーたんはカメラを用意する。ちょっと気が早すぎる気もするが、まぁヒナも喜んでそうだしいっか。思いながら妹に『サプライズあるから、今日の配信見てくれよ』とメッセージを送る僕であった。
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