第8話 ナビを探そう!

「そう、ナビ! ナビはナビゲーターの略で、ダンジョンの地形を把握して進む方向を決めたり、敵モンスターの特徴や弱点を教えたり、隠された宝箱を探したり……パーティには必須と言ってもいいほどのジョブなんだよ!」


「へぇー。ずっと一人でやってたから知らなかった」


『草』

『ええ……』

『よくソロでダンジョンとか入れるわ……w』

『ナビ無しでダンジョン行くのは自殺行為なんだぞ!?』

『まぁるーたんは索敵と隠れスキル持ってるから……』

『ナビいないと普通に遭難するけどなぁww』


 コメントを見るに、どうやらるーたんの言ってることは本当らしい。やっぱり普通の人間は、一人でダンジョンに行ったりはしないようだ。


「一応私も軽くだけど、ナビっぽいことは出来るよ。でも道が分からないことも多いし、何より戦闘に専念出来ないのは、かなり大変なんだよねー」


「そうなのか」


 まぁ戦いつつ、仲間に指示を出したりするのは難しいんだろう。それに探索でも体力を使うだろうしな……それをナビに全部任せられると、楽にはなりそうだ。


「あ、ちなみに慎也お兄ちゃんは何かナビっぽいスキルは持ってる? 索敵とか、探索とか、鑑定とか……」


「いや、何も持ってない。剣術と電撃系スキルくらいしかないな」


 するとるーたんは、首を傾げたままジト目でこっちを見てきて……。


「……よく今まで生きてこれたね?」


『草』

『草』

『それはほんとそう』

『戦闘狂過ぎるんだよ』

『サバイバル術まとめた動画出して♡』


「いやまぁ最悪、ダンジョンで寝泊まりも出来るし。食料もモンスターから調達出来るから、遭難しても死ぬことはない」


「ええ……私、そんなの絶対嫌だからね? そんなことにならないために、優秀なナビをスカウトするからね!」


 そう言ってるーたんは鞄の中を漁る……そんな彼女に俺は問いかけて。


「それは分かったけど、どうやって見つけるんだ? 視聴者から募集するとか?」


「いやいや、前にも言ったけど私の視聴者は探索者じゃない人が多いんだよ。いわゆるカジュアル向けというか、エンタメ系というかそういう配信してるから……だから視聴者からは絶対に選ばないよ」


『草』

『それがいいよw』

『慎也にぃ以上に有能なやつなんてここにいないしな』

『リスナーが自己主張すると叩かれるしなここ』

『俺らはるーたんの配信見に来てるから』


「ふーん……なんかそれもよく分からないけどな。探索者だって、カジュアル向けの動画見るんじゃないか?」


「まぁいるにはいるだろうけど……おもしろゲーム実況者の配信見る人と、プロゲーマーの配信見る層は結構違うでしょ?」


「そういうもんか?」


 あんまりピンとは来なかったが……ここを深堀りする意味もないと思った僕は、次の質問へと移った。


「じゃあ、ナビはどうやって探すんだ?」


「それは……あの掲示板に貼るの!」


 そう言いながらるーたんは、ギルド中央にそびえ立つ巨大な掲示板を指差した。


「なるほど。あそこに募集要項貼って、それ見た人が来るかもしれないってことか」


「そういうこと! パーティメンバーの募集の他にも、アイテムの交換だったり、個人的な依頼だったり色々貼ってあるけどねー。後で一緒見よっか!」


「分かった」


『仲良くなってていいねぇ』

『お似合いやぞ』

『正直二人だけでもなんとかなりそうだけどなw』

『ナビいるのといないのじゃ、探索効率アホほど変わるから』

『まぁ効率は良くなるだろうね』

『この戦力に優秀なナビが加わったら、エリクサーも夢じゃないぞ!!』


 コメントを読んで僕はハッとする。ナビの有無など気にしていなかったが……確かに優秀なナビが仲間にいると、エリクサーを見つけられる確率も上がるかもしれない。だったら加えない手はないだろう……。


「るーたん、絶対ナビ仲間にしような」


「おっ、やっと乗り気になってくれたね! じゃあ早速、メンバー募集の紙書こっか! 沢山来ちゃったら、オーディションしなきゃだね~」


「でもそんなオーディションするほど集まるかなぁ……?」


「来るよー! だって私、超美少女で大人気のダンジョン配信者なんだよ!」


「自分で言って恥ずかしくないんだ」


『草』

『まぁ事実やし……』

『悔しいけどかわいいんだよなコイツ』

『顔見に来てるまである』

『まぁおもしろ系のダンジョン配信者なんて中々おらんし』

『みんな命懸けだもんな』


 どうやらるーたんの言ってることは事実らしい。まぁ確かに奇抜な衣装も似合うくらい、顔は整ってて可愛い子だとは思うが……まぁ妹には敵わないな。うん。


 それでるーたんはナビの募集の紙を書いているようで、声に出しながらペンを進めていく。


「まず索敵はマストで欲しいよねー。あと、絶対に迷いたくないからマップサーチも確実に欲しいし、セーフゾーンまでのワープスキルも欲しい……あと、暇な時回復とか強化してくれるスキルあったら便利かも!」


「……流石に高望みし過ぎじゃない?」


 ナビゲーターに特化した人を探すとはいえ、流石に求めすぎだとは思うんだけど……でも、そんなのるーたんは気にしていないようで。


「やってみないと分からないって! すっごい優秀な子が来るかもよ?」


「まぁそれはいいんだけど……もし本当に凄い人来たら、その人の報酬とか払えるのか? 僕はお金なんか持ってないから、アテにしないでほしいんだけど」


「…………その時はその時考えるよ!」


「大丈夫かなぁ……?」


 そして数分後……どうやら募集の紙を書き上げたようで、るーたんは席を立って。


「よし、じゃあ受付に許可貰って貼ってくるね! 何か食べてていいよ!」


 そう言って受付の方に足を進めるのだった。その間、僕はるーたんが置いたままにしたスマホのカメラに向かって、視聴者にこう尋ねてみて……。


「……なぁみんな、本当にあの条件を満たしたナビが来ると思う?」


『いや?』

『来ない』

『ぜったいこない』

『あの条件、SS級パーティのナビレベルだぞ?』

『来たらおもろいやんw』

『普通この二人の戦ってるとこ見て、来れる人なんかいねぇよwww』


「だよな」


 ──


 それから僕らは、ダンジョン配信で使いそうなドローンやアイテムを購入したり、るーたんから配信の仕方なんか教わったりした。


 そして更に数日後……。


「今日が待ちに待ったナビの募集日時だよ! 何人来てるかな~?」


「なんで誰も来ない可能性を考えないんだよ」


 僕らはナビを募集する紙に書いていた集合場所、ギルドの休憩スペースにやってきていた。あれを見た希望者は、今日この時間に来るはずなのだが……。


「いや来るって! 来る来る……来るよね?」


「不安になってんじゃねぇか」


 今のところ、それっぽい人は見当たらなかった。まぁるーたんも後から書きすぎたとは思ったんだろう……何日か前は、オーディションの様子も配信しようとか言って元気だったんだけどな。


「まぁどうせ誰も来ないから、条件を緩和させてもう一度募集しよう」


「えー。でもまぁそっかぁ、しょうがないかー……」


 ……と、るーたんがそう口にした瞬間。


「……ね、ねぇ! アナタたちがナビ募集してた人よね?」


「えっ?」


 ピンク髪で八重歯、そしてキャラクター物のパーカーを着た小さな女の子が、僕らに話しかけてきたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る