第7話 そりゃ大事件だな

 ──


 数日後。これから僕がどんな風に配信をやればいいか教えてもらうべく、るーたんに話し合う場を設けてもらっていた。確か連絡ではこの辺りにいるって言ってたはずだけど……やっぱ地上は迷いやすいな。ダンジョンの方が分かりやすいよ。


「あっ、いたいた! 慎也お兄ちゃん!」


 道の脇から聞き覚えのある声が。そっちを振り向くと……相変わらず魔法少女みたいな格好をしたるーたんが、そこに立っていて。


「毎度すごい格好してんな……あと、お兄ちゃん呼びやめてくれって言ってるだろ」


「ふふ、照れてるの?」


「どう見たらそう思うんだよ。普通に呼んでくれ」


「はいはい。配信外の時は慎也くんでいい?」


「ああ……別に配信中もそれでいいんだけど」


「んふふー」


 笑って誤魔化されつつ、るーたんは歩き始める。僕もそれについて行きながら、どこに向かっているかを彼女に尋ねた。


「で、どこ行くんだ?」


「すぐつくよー。ほら、あれ!」


 そうやってるーたんが指差した先には、巨大な高層ビルがあって。


「ん、ここは……?」


「ここはギルド『カナリヤ』! 日本で一番大きなギルドなんだよ!」


「へぇー。こんなところにギルドあったのか」


 今更だけどギルドについて解説……ギルドはダンジョン探索者を支援するための施設で、全国各地に存在している。そこでは依頼を受けたり、仲間を募ったりもしているらしいが……あんまり僕は詳しくないんだよな。やったことないし。


 そもそも僕はアイテムの換金くらいでしか、ギルドに訪れないからね。それも近所にある、必要最低限のことしか出来ないこじんまりしたところにしか……だからこんな大きなオフィスビルみたいなギルドがあるなんて、初めて知ったよ。


「でもなんでここに?」


「ここは武器も売ってるし、配信機材も売ってるから買い物に丁度いいかなって! 食堂も併設されてるから、そこで食べながら今後について話し合おうとも思ってねー」


「ああ、なるほど……ご飯はるーたんの奢り?」


「えー? もー。しょうがないなー、今日だけだよー?」


 そんな会話をしつつギルドの自動ドア進むと、そこは多くの探索者らしき人で賑わっていた。そして僕とるーたんが来たことに気づくなり、ヒソヒソと話をし始めて……ああ、目立つのは避けたいのになぁ…………って、あれ……?


「ん。慎也くん、どうかしたの?」


「いや、なんか明らかに僕ら避けられてない?」


 写真やサインを求めてくる人はおろか、話しかけてくる人さえ現れなかった。いや、ちょっと配信に出ただけの僕が有名になったなんて思ってないけど……でもるーたんは別だろ? だって3万人以上、配信見てたって言うし……。


 そんな僕の不思議そうな顔を見たるーたんは、珍しくちょっとだけ気まずそうな表情を見せて。


「あぁ……まぁ、いつものことだよ」


「えっ? だって、るーたんって超有名配信者なんだろ? 普通話しかけられたりするもんじゃないのか?」


「えっと……ほら、私はアイドルみたいな配信者じゃないからさ! ほら、私の戦ってるところ見たでしょ? あれ見て引く人が多いみたいなんだよねー」


「まぁ……」


 確かに戦闘中は、キャラ変わってめちゃくちゃサイコパス味を感じたけども。でもそれだけで、こんな反応になるもんかな……?


「……それに私、過去に結構やらかしちゃってね。だからまぁ、このダンジョン界隈では腫れ物みたいな扱い受けてるんだ」


「ふぅん……でも配信は人気なんだ」


「まぁねー? 私の配信って、探索者じゃない人が多いし。それに私の視聴者は信者……んんっ、熱狂的なファンが多いからね」


「なるほど」


 ほんのちょっとだけるーたんのことが分かった気がする。るーたんという配信者は、強いけど色々と厄介事を起こすから、他探索者からは腫れ物扱いされている。でも配信は普通に面白いから、探索者じゃない人からの人気はそれなりあると……。


 これは面倒そうな人に目を付けられたなもんだなぁ……。


「だから一人で配信してたの?」


「そ。一人だと気軽に配信出来ていいけど、困ることも多いし……そんな時に慎也くん見つけたから、絶対に逃したくなかったんだよねー」


 そう言いつつ、るーたんは食堂の席に座って、鞄から何やらスマホスタンドを取り出した。


「何してるんだ?」


「配信の準備。裏で色々進めるの勿体ないから、配信上で決めようって思ってー」


「ええ……ここで配信していいの?」


「他の人映さなきゃ大丈夫……って、前に誰か言ってた気がする!」


「……」


 まぁ、この自分がやりたいようにやるスタイルを見るに、嫌う人がいるのも納得かもしれない……でもそれ以上のカリスマ性で、視聴者を集めているんだろうな。


 ……で、合図も無しにるーたんは配信を開始させたようで。ワントーン声を上げて、スマホに向かって話していくのだった。


「はい始まりましたー、るーたんの突発配信~! もちろん相方の慎也お兄ちゃんもいるよー!」


「いつ僕が相方になったよ」


 僕がそう突っ込むなり、配信画面には『草』とコメントが流れてくる……突発で始めた割に、人集まるの早すぎだろ。


「……ってかずっと気になってたけど、草ってなんだ?」


「ええー? 慎也お兄ちゃん草も知らないの~? あははっ、草ぁ~」


「馬鹿にされてることはちゃんと伝わってるよ」


『草』

『草』

『こいつら相性良いなww』

『るーたんが誰かと配信するの新鮮だな!』

『前は沢山やってたけどね……』

『まぁアレがあったからな』

『アレ以降激減したからな』

『だからあの事件には触れんなって』


 ……ん? なんだ、事件って? 聞いていいやつだろうか……まぁ駄目だったとしても、気になるから聞くんだけど。


「なぁ、るーたん。事件ってなんだ?」


『あ』

『あ』

『あっ』

『まずい』

『おい誰だよコメント書いたやつ』


 するとコメ欄は一変し、僕とるーたんの間に緊張が走る……えっ、やっぱ踏み込んじゃいけなかったやつか? でももう言わなかったことには出来ないし……僕は少し冷や汗をかきながら、彼女の言葉を待った……。


「……んー? ああ、私がダンジョンでおしっこ漏らしちゃって、それ見たコラボ相手にドン引きされちゃったこと?」


「そりゃ大事件だな」


『草』

『草』

『wwwwwwwww』

『マジ? そのアーカイブください』

『(当然消されて)ないです』

『リアタイしてたやついるのか!!??』

『ノ』

『証拠ハラディ』

『URLも貼らずにコメントとな?』


 ……っと、コメ欄が盛り上がってる中、『ごまかしたな』とただ一言書いてあるコメントが逆に気になってしまった。やっぱりごまかされたのか……? まぁこれ以上深堀りしても良いことないだろうから、聞かないでおくけど。


「もー、そんなことより、今日は私達の今後について話し合わないとー。もう慎也お兄ちゃんは私の相方なんだから」


「だから相方になった覚えはないって……ってか僕は配信はやるとは言ったけど、一緒にやるとは言ってないぞ」


 するとるーたんは目を見開き、僕に顔面を押し付けるくらい近づいて。


「え、ええー!? ダメだよ、やってよ! やんなきゃ、機材も配信方法も教えてあげないよ!!?」


「いや、それなら他の人に聞けば……」


「えー、待ってよぉ! ホントにそれでいいの!? 妹ちゃん悲しむよ!?」


 ……それ出されると弱いんだよなぁ。乃愛は配信で僕だけじゃなくて、るーたんが出ることも期待してる……るーたんを裏切るイコール、乃愛を裏切ることになるわけで……もちろんそんなことは死んでも出来ないので。


「……はぁ。分かったよ。一緒にやろう」


「うんうん! それがいい! それでいい! 私と組んだらエリクサーなんて、ちょちょいのちょいで見つかるよ!」


「だといいんだけどな」


 そんな簡単にはいかないだろう……まぁエリクサー探しに付き合ってくれるのは、助かるんだけどな。


「……よし、じゃあ慎也お兄ちゃんも納得してくれたみたいだし、私達の今後について話し合っていくよ! やみくもにエリクサー探したって、見つからないだろうし」


「何か策があるのか?」


「うん! まずはね……『ナビ』を探そうと思うの!」


「ナビ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る