第5話 イレギュラー遭遇、そして……

 イレギュラーとは……ダンジョンに潜っている最中、極稀に出現する非常に強力なモンスターのことである。それは予測することがほぼ不可能であり、それによって命を落とす探索者も少なくはない。


 僕もイレギュラーによって全滅したパーティを見たことがあるし、実際に遭遇したこともある。その時は奇跡的に生還することはできたが……いくら強くなったとはいえ、好んで相手したいものではない。


 なのに……なんでこんなタイミングで遭遇するんだよ……!? ……はぁ、嘆いても仕方ないか。とにかくどうにか倒さなければ。るーたんはどんな様子だ? 普通イレギュラーなんかに遭遇したら、冷静じゃいられないはずだけど……。


「あっ……あは、ははっ……アハハッ! 私、ツイてるかも!」


「イかれてる……」


 どうやら興奮しているらしい……まぁこんな奇抜な格好で、ダンジョン配信なんかしてるし。それに加え、この東クロウダンジョンの50層に一人で来れるのは、相当な実力があってこそだ。今更そのことに気づいてしまったよ……やっぱコイツ、僕よりイカれている。


『おいおい大丈夫かよ!!!?』

『流石に誰かに助け求めたほうがいいんじゃないか!?』

『いや二人とも強いとはいえ、二人じゃやばいだろ』

『二人での初戦闘がイレギュラーってマジ?』

『連携取れねぇだろwww』

『みるのこわいよーーーー!!!』


 どうやらコメントは僕らよりも慌てているらしく、爆速で流れている。まぁ下手すれば配信上とはいえ、人が死ぬ瞬間を見るかもしれないからな……ま、それに反して視聴者が一気に増えてるのには、ちょっと闇を感じてしまうけれど。


「……はぁ。るーたんは何の属性攻撃が得意だ?」


「私はね、闇! 即死攻撃とかも使えるよ!」


「イレギュラーに効いたら驚きだけどな」


 そんな会話をしつつ、僕はショートソードを構える。隣を見るとるーたんは、両手にナイフを装備していて……その目は赤く光っていた。ああ、もしかして戦闘になると豹変するタイプ?


 そして徐々に鳴き声が近づいてきて……遂にヤツは、僕らの前に姿を現した。そいつは体長5メートルは超えたミノタウロスのような姿をしており、身体には鎧、腕には巨大な斧を構えていた。そして頭には立派な角が二本生えていて……。


「あははっ、こんなデカいの初めて見たよ!」


「弱点はあの角ってところか……?」


『でっっっっっっっっっか!?』

『画面越しでもこわい!!!!!』

『配信でも見たことないってこんなの』

『二人は無理だってこれ!!』

『今すぐ逃げろって!!!!』

『逃げれるとは思えないし、戦うしかないよ』


 まぁこの階層は直線が多いし、逃げられはしないだろうなぁ……。


「グォオオオオオオオオオッ!!!!!!」


 そしてミノタウロスは僕らに向かって、あり得ない速さで突進してくる。


「おっと……!」


 間髪、僕はローリングで避けることに成功したが、るーたんは大丈夫か……?


「……うわー、元気だねー? こんなの当たったら死んじゃうよ!」


「えっ……?」


 僕が顔を上げると、いつの間にかるーたんはミノタウロスの背後に立っていた。こいつ、もしかしてワープスキルを持っているのか……!? そして背後を取ったアドバンテージを活かし、るーたんは闇を纏ったナイフをヤツの背中にぶっ刺した。


「グッ、ガアアアアッッ!!!??」


「おー、ちゃんと衰弱入ってたら効くじゃん! もっといる?」


 言いつつるーたんは笑顔で、追加のナイフを刺していく……いや、サイコパスすぎんだろ。


『ええ……』

『草』

『草』

『いつものきたああああああああああああ!!!!!』

『俺はお前が一番怖いよ』

『慎也にぃドン引きで草』


 それで流石にミノタウロスの我慢の限界か、斧で振り払うモーションを見せるが……るーたんはそれを驚異的なジャンプ力で避け、そのままナイフを敵の顔面目掛けてぶん投げた。それは見事に命中したようで……その巨体はバランスを崩した。


『え!?!?』

『うっまwwwwww』

『強すぎる』

『エイム◎』

『こいつ投げナイフは世界一上手いんすよw』

『みえ』

『カメラさんもうちょい下!!!!』


「……ふぅ。はい、スイッチスイッチ! 私、火力は出ないからさー」


 そして着地したるーたんは僕に近づいて、背中を押す……バトンタッチと言う事だろうか。まぁ……何にせよ、相手をスタン状態にしてくれたのは非常に有り難い。力を込める時間があるからな。僕は剣に力を集中させ、電撃を込める……。


「わぁー! やっぱり慎也お兄ちゃんは、雷系の攻撃が得意なんだね!」


「……だからお兄ちゃん呼びは、やめてくれって言ってるだろ」


 言いつつフルパワー状態になった僕は、スタン状態のミノタウロスへ駆け出し……その頭部に向かって攻撃スキルを発動させた。


「はぁぁぁああッ……!!!! 『雷鳴一閃!!』」


「グオッ────!!!??!?」


 ──刹那、攻撃を喰らったミノタウロスは光と共に爆散した……ふぅ。こんだけ力込めたの久しぶりだな。まだ手がヒリヒリするよ。


『!?!?』

『は??????』

『ええ……』

『一発!!!??』

『あの装甲を一発で貫くのアホ過ぎる』

『一発でいいわけ、慎也にぃは』

『火力どうなってんだおいwwwww』

『この二人怖すぎるよ』

『いま来た、まだ生きてる!?』

『二分くらいで終わったぞ。犠牲者どころか怪我人なしで』

『ラーメンより早くて草なんよ』


「うっはー! 凄いね! 流石に一発だとは思わなかったよ!」


 るーたんは興奮した様子で、僕に話しかけてくる……いやまぁ、十分アンタも凄かったと思うけど。


「いや……るーたんが時間作ってくれたおかげだよ」


 僕はそうやって言葉を返す。当然、僕一人だとこんな速さで討伐は出来なかっただろうからな……まぁ一人でもいけたはいけただろうけど。苦戦はしただろうな。


「うんうん、ありがとー! いやー、やっぱりこの強さを見ると、ますますもったいないと思っちゃうなー?」


 そしてるーたんはコメント、そしてドロップアイテムを一通り眺めた後……また、僕の眼の前に近づいて。そして手を差し伸べながら、こう言うのだった。


「ね、慎也お兄ちゃん。君もダンジョン配信者……いや。私と一緒にダンジョン配信、やってみない?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る