第4話 ……ダンジョン舐めてる?

「いやまぁ……これはお金のためだから。るーたんからお金かっぱらったら、すぐに僕は帰るからね?」


「それでもいい。慎也にぃがまたるーたんの配信に出てくれるなら、のあ嬉しい……」


 どうやら乃愛は思ってたよりも、るーたんのファンだったらしい。正直気は進まないけど、お金が貰えるのなら……配信に出て、乃愛が喜んでくれるのなら。僕は得体の知れないダンジョン配信者のおもちゃにだってなってやろう……嫌だけどさ。


「それで……お金欲しいから行きたいんだけど、どうすればいいかな」


「のあがコメントしてあげる」


 そう言って乃愛は慣れた手つきで、フリック入力をする。


「よし……」


「なんて書いたんだ?」


「えっと……『慎也にぃの妹です。お金ほしいから行きたいって言ってます。どこに行ったらいいですか』って」


「わぁ、すっごい丁寧」


 すると乃愛の打ったコメントは高速で流れていき……途端にコメント欄はざわつき始めた。


『あ』

『えっ?』

『草』

『妹来てて草』

『妹きtらあああああああああああああ!!!!!』

『はい釣り』

『流石に釣りだろwww』

『こんなのに釣られる奴ら、半年ROMってください』

『いーや、これガチっぽいんですけど……』


「なんか困惑してるのは分かるけど、意味がよく分からないな……釣りってなに?」


「きっとお魚さんが好きなんだよ」


「おお、そっか……でもなんで急に釣りの話してるんだ?」


「…………」


 これ以上、乃愛は何も言わなかった。知ったかぶりしているのか、説明するのが面倒だと思ったのか……後者だったらお兄ちゃん、ちょっと悲しいよ。


 それで、そのコメ欄のざわつきにるーたんも気づいたみたいで……。


『えっ、慎也お兄ちゃんの妹さんからコメント来てた!? ホントに来るって!?』


『釣りでしょww』

『絶対嘘だゾ』

『いや、過去コメを見るにガチっぽいんだよな……』

『慎也お兄ちゃんじゃなくて、慎也にぃだぞ』

『にぃに!?』

『慎也にぃ呼び、非常に萌えます』


 るーたんは数十秒コメントを眺めて考えた後……こう口にして。

 

『うーん。確かに嘘のコメントの可能性もあるのかー……でも無視もできないし。じゃあ本当なら明日、東クロウダンジョンの第50層に来てってお兄ちゃんに伝えて!』


「……だって」


「えー……? あそこ前に探索したから、もう行く意味ないんだけどなぁ……」


 でもまぁ……お金のためだ。明日はるーたんに会って、金貰って……とっとと次に目を付けているダンジョンに赴こう。そう思いながら僕は再び手を動かして、乃愛特製のオムライスを口にするのだった。


 ──


 次の日。僕は約束通り、東クロウダンジョンの50層に赴いていた。確かここはそれなりにレベルの高いダンジョンで、セーフゾーンもあまりないんだけど……どうしてこんな面倒な場所に呼び出したんだろうか。嫌がらせ?


 思いつつ、道中に出でくるモンスターを蹴散らしながら進んでいくと、そこには昨日とは違う……いわゆる地雷系というやつだろうか。黒のミニスカートに、フリフリのピンク色の衣装を纏った、るーたんの姿がそこにはあって……。


「あー! 本当に来てくれたんだー!!」


「……ダンジョン舐めてる?」


 つい本音が口に出てしまった。いや、昨日の制服もだいぶ舐めた格好だったが……もしかして動きにくい格好でダンジョン攻略する、変な縛りプレイでもしているのだろうか。それでるーたんは首を横に振りながら。


「いやいや、私はダンジョン配信者だからさー! 見た目には気を使わないといけないの!」


「あ、そう……」


 見た目で売ってるんだろうか……でも思い返せば、あの潜伏スキルもそれなりに高レベルのものだったし、探索者としてそれなりに強いんだろうか。にしても動きにくい格好で来るのはやめたほうがいいと思うけど……まぁそんなことより。


「……僕が来たのはお金のためだ。約束通り来たんだから、報酬くれ」


 そう言うと、るーたんは不思議そうな表情を見せて……。


「あれ、配信最後まで見てくれなかった? 私は『もう一度配信上ですごい技を見せて、S級のモンスターを倒したら賞金をあげる』って言ったんだよ」


「…………えっ?」


 そんなの聞いてないんだけど……いやまぁ。確かに昨日、途中で配信見るのやめてオムライス食べてたけどさ。後出し過ぎない?


「本当?」


「うん、リスナーのみんなもそう証言してくれてるよ」


 そう言って彼女はホログラフ……? というやつだろうか。謎の球体を取り出して、空中にコメントを表示させた。現代にそんな技術あったのか……。


『うん』

『草』

『のちのちそうなった』

『のちのちな』

『慎也にぃきたああああああああああ!!!』

『お兄ちゃん!! また凄い技を見せてくれ!!』

『やっほー! お兄ちゃん見えてるー?』

『はやく戦ってくれ!!』


 だけど……そうなると話は変わってくる。ここでまた僕が技を披露して、また変に話題になると、これからのエリクサー探しに支障が出るかもしれないからな……ここは断ろう。


「……だったら帰る」


『え』

『えっ』

『あ』

『そんな』

『まって』

『いかないで』

『どうかいかないで!!』

『まじかよ、るーたんのチャンネル登録外します』


「え、えー!? ちょっとー!! 視聴者のみんなも楽しみにしてたんだよー!? それに妹ちゃんも配信見てるんでしょ? お兄ちゃんがここで帰って、コメントでボロクソ言われたら、きっと妹ちゃんも悲しむよ!」


「お前に妹のこと語られてもな……」


 乃愛がるーたんの視聴者だろうと、勝手に気持ちを代弁されるのは少々不快なものがあった。……とここで、着信音が鳴って。


「もしもし……乃愛?」


「ノータイムで取るんだ……いや、別にいいけどさ」


 るーたんの視線をガン無視して、僕は通話先の声に耳を傾ける……すると乃愛は、僕に語りかけるように優しい声色で……。


『今、るーたんの配信見てる。慎也にぃ……逃げないで?』


「いや、そうは言っても……」


『のあ、慎也にぃが活躍するところ見たい。かっこいいところ、見せて?』


「乃愛……」


 乃愛は物静かで、引っ込み思案なところがある。だから僕にお願い事なんて、本当にたまにしかないんだけど……そのたまにがこれか。別に僕はるーたんの視聴者からどう思われようが構わないんだけど、妹の頼みとあればまた話は変わってくる。


「…………はぁ。分かったよ。適当に倒せばいいんだよな?」


『うん……! 配信で慎也にぃ見るの、楽しみ……!』


『お』

『うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』

『きたあああああああああああああああ』

『妹ちゃんありがとうありがとう』

『さすがシスコンニキ』

『っぱ妹なわけよw』

『るーたん<<<<<<<妹』

『当たり前だよなぁ?』


 そんな爆速で流れるコメントを横目に、僕は電話を切ってスマホをポケットにねじ込んだ。


「……妹ちゃんのことなら、本当になんでも聞くんだ」


「うっさい……あと終わったら、報酬と一緒にステッカーとやらもくれよな」


「おお~。それも妹ちゃんからのお願い?」


「ああ」


 するとるーたんは昨日見せてくれたアイテムボックスを召喚して、何枚かステッカーを取り出した。


「ふっふっふー、ちゃんと用意してるよ……るーたんステッカーは全10種類でね、通販じゃ買えない限定のやつもあって──」


 ──と。このタイミングで。本当にそれは急に訪れて。


「グォォォォオオオオオーーーッ!!!!!!!」


「えっ……!? ま、まさか、この鳴き声って……!?」


「ええ……? なんでこんな時に限って、イレギュラーが来るんだよ……」


『あ』

『あ』

『まずい』

『うそだろ』

『初めてみたんだけど!!!???』

『ヤバイヤバイヤバイ』

『しかも二人の時にって、ついてねぇ……』

『大丈夫!? ねぇ大丈夫これ!? るーたん死なない!?!?』

『え、なに? なにが起こってるの?』

『イレギュラー……アホみたいに強いヤツが急に現れたってことだよ』

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