第2話 僕をお兄ちゃん呼びしていいのは妹だけだ
ダンジョン配信者って、どっかで聞いたことある気がする……ああ、そうだ。テレビかなんかで取り上げられてたっけ。ダンジョン配信者が無許可で封鎖されたダンジョンに突撃したとか、町中で武器振り回して一般市民に危害を加えたとか……。
「ああ……人様に迷惑掛けるでお馴染みの」
「えっ、全然違うよ!? そんな迷惑系配信者とか、今どきいないからね!?」
少女は大きな声で否定しながら、首を横に振る。まぁ僕に危害加えてこないのなら、なんだっていいんだけど……。
『……慎也にぃ。誰かと話してるの?』
スマートフォンからは妹の声が。僕がダンジョン配信者と話しているのが聞こえていたのだろう……僕は足を進めながら、こう返事をして。
「ああ、なんでもないよ。今から帰るから……」
「ちょ……ちょっと待って!! 君と話がしたいんだけど!!」
「え?」
その少女に僕は引き止められる……そして両手を広げ、僕の前に立ちふさがって。
「さっきから隠れて見てたんだけど……君、S級モンスターのファイアグリンの群れを倒してたよね? しかも片手で……いったい何者なの?」
ファイアグリン……? ああ、ひょっとしてあのヤキトリくんのことかな。
「何者って……ただの探索者だよ。じゃあね」
「だあーっ!! 待って待って!!」
「まだ何か……? 今日はオムライスだから、早く帰らないといけないんだ」
連続で引き止められたものだから、僕もちょっとだけ迷惑そうな表情を見せる。すると少女は申し訳なさそうにしながらも、僕に質問を続けて。
「それは本当にごめんだけど、どーしても君のことが気になって! えっと、探索者のランクは? 所属してるクランは?」
なんだか長くなりそうだな……適当に答えて、とっとと去ろう。
「どこにも所属してないよ。ランクは確か、E……いや、Fだったっけ……」
すると少女は、白い目を僕に見せたまま……。
「……いや、そんな冗談いいから」
「本当だってば。僕は依頼とか受けないから、ランクを上げる意味がないんだよ」
「依頼を受けない……? どういうこと?」
「僕はとあるアイテムを探してるから、依頼なんて受ける暇ないんだ」
「とあるアイテム?」
「それは教えないよ」
伝説の回復薬『エリクサー』の噂はそれなりに知れ渡っているが、実際に見た人はおろか、存在するかどうかも怪しい。そんなものを本気で探してるなんて知ったら、馬鹿にされることは分かりきっていた。
……でも、負けじと少女はグイグイとその話を深ぼってきて。
「どうして? ほら、私ってそこそこ強いし、色んなダンジョン回ってるから、色々なアイテム持ってるし……視聴者もそこそこいるから、持ってる人いるかもよ!」
「……」
「ほら、今3万人くらい見てるから!」
いや、嘘だろ……それに万が一エリクサーを持ってた人がいたとしても、絶対他人にあげないだろうけどなぁ……でもそこまで言うなら、言うだけ言ってみるか……?
「……エリクサー」
「えっ?」
「エリクサーを探してる」
すると少女は一瞬だけ面食らったような表情を見せたものの……気を取り直したようにすぐにアイテムボックスを召喚して、アイテムを探し出した。
「えっと……エリクサーねー……あ、い、う、え…………」
五十音順でアイテム整理してる人初めて見た。
「……え、え、エッチな紐パンしか持ってない!!」
「…………もういい? 妹が待ってるんだ」
普段なら愛想笑いくらいは出来ただろうが……今は妹のことで頭がいっぱいだった。僕には一秒でも早く家に帰って、乃愛のオムライスを食さねばならないのだ。それで少女はこれ以上引き止められないことを悟ったのか、名残惜しそうに。
「あ、うん、ごめん……じゃあ、最後に。名前教えてくれない?」
そうやって僕に聞いてきた。正直名乗りたくはないのだが……まぁもう二度と会うことはなさそうだし。名乗って、とっととこの場から去ろう。
「慎也だよ」
そしたら少女は微笑んで、わざとらしく甘ったるい声で。
「そっか、慎也お兄ちゃんだね!」
「……僕をお兄ちゃん呼びしていいのは妹だけだ」
最後に僕はそう言い残し、ワープスキルを使用して地上へと戻るのだった。
──
──
──るーたん視点──
「あっ、ごめん……って、もういないし!?」
私が顔を上げると、もうそこにはスマホを片手にした少年……慎也お兄ちゃんは、既に眼の前から消えていた。ここでホログラフを出してコメント欄を確認すると、いつもの倍以上の速さでコメントは流れ続けていて。
『草』
『草』
『なんだったんだアイツwww』
『とんでもない人に出会ったなぁwww』
『これ本当に仕込みじゃないの?』
『普通に考えて、一人でこの階層に来れる人なんて日本に数十人もいないだろ』
『るーたんのことも知らなそうだったしなぁ……本当に謎だ』
一応私の登録者数は100万人を超えているから、知名度はそれなりにあると自負しているけど……名前すら聞いたことないって探索者には、久々に遭遇した。
「本当に謎な人だったね……キャラ作ってるとは思えないし」
『剣術も魔法も自己流だったし、極めたら化けるぞアレ』
『スマホもすげぇ旧型の使ってたし、本当に世間のこと知らないかも?』
『ダンジョン育ちの可能性が微レ存』
『未だにエリクサーとか信じてる人いたんだな』
『まぁまだ探索されてないダンジョンも無数にあるし、無いとは言い切れないだろ』
『ひょっとしたら、るーたんより強いんじゃねwww』
ひょっとしたら、なんてものじゃない。ファイアグリンの集団を片手で……しかもあんな安物の剣で討伐なんて、私に出来るわけがない。最強Sランク少女、なんて持て囃されてきた私だけど……どう見ても、あの慎也お兄ちゃんの方が最強だ。
「……」
私は慎也お兄ちゃんが置いていったであろうドロップアイテムの山を見ながら、ドローンカメラに向かって。今見ている3万人の視聴者の前で、こう宣言をした。
「……やっぱり。やっぱり私、あの人のことが気になる! もう一度会って、腕前を確かめたい……いや、共闘したい! なんなら仲間になってほしい! だからみんなで慎也お兄ちゃんを探し出そう!!」
『草』
『草』
『慎也にいちゃん捜索編きtらああああああああああああ』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』
『でもどうやってまた会うんだ?』
『ギルドに来ないんじゃ、もう会えなそう』
『ダンジョンで待ち伏せする?』
『エリクサーで誘き寄せるか……?』
『シスコン兄ちゃんには、妹っぽい格好が有効だ』
『どれも成功率低そうだなぁ……w』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます