病弱な妹のためにダンジョンで秘薬を探していたお兄ちゃん、その様子を人気配信者に撮影されバズってしまう。~通話しながら片手でS級モンスター倒してて草~

道野クローバー

第1話 お兄ちゃん、ダンジョン配信者と出会う

「もしもーし、乃愛のあ? お兄ちゃん今戦闘中だから、結構うるさいかもよ」


 左手でスマホを耳に当てながらそう言い、右手でショートソードを構える。そんな僕の目下には、真っ赤な翼を広げた巨大な鳥モンスターの群れが。


『ごめん……でも。慎也しんやにぃの声、聞きたくて』


「ああ、謝ることはないって。寂しくなったらいつでも電話していいって、お兄ちゃんいつも言ってるでしょ?」


『……うん』


 愛しの妹の声を聞きながら、僕は鳥モンスターの吐き出した火球を避けて近づき、ヤツの首元を掻き切る。それを見た残りの鳥達は憤怒し、けたたましい鳴き声と同時に襲いかかってくるが……僕はその突進を軽くステップで避け、スキルで一気に薙ぎ払った。


「『雷鳴一閃らいめいいっせん』……って、わざわざスキル名口にしなくてもいいんだけどね」


『ダメ……のあが聞いてるから、ちゃんと大きな声で言って』


「はーい」


 乃愛に返事をしつつ、僕は倒したヤキトリくん(勝手に命名した鳥モンスターのこと)のドロップアイテムの確認をする。謎の卵、魔石、赤色の羽根……うん、こんなもんか。やっぱりここの階層……いや、このダンジョンにも秘薬は無さそうだ。


「……よし、今日はこのくらいにしとくか。乃愛、晩御飯の用意をしてくれると助かるよ」


『うん。今日はオムライスだから早く帰ってきてね』


「おおー、乃愛のオムライスは世界一だからな。早く食べたいや」


『うん。遅れたらケチャップで絵、描いてあげない……』


「それは大変だ。急いで帰らなきゃ」


 そう言いつつ、僕は適当に赤色の魔石を一つ拾い上げ、ダンジョンのセーフゾーンまで足を進めていった。


 ──


 今から数年前、突如世界の各地にダンジョンが出現した。当時は僕も幼かったが、世の中の大人達が大騒ぎしていたことをよく覚えている。


 当初は敵意を持った未知の生命体が潜んでいることから、ダンジョンは危険視され封鎖されていたが……ダンジョンで手に入る金品や特殊なアイテムが発見されてからは、状況は一変した。国はダンジョン探索者という職業を推奨するようになり、ダンジョンで手に入る素材を高値で買い取ることにしたのだ。


 もちろん探索者は命懸けで探索するから、割に合わないといえば合わないのだが……それでも一気に金持ちになる人も続々と現れ。探索者は子どもたちの憧れの職業となり、探索者の数はうなぎ登りに増えていった。


 でも僕がダンジョン探索者をやっている理由は、金のためなんかではなく……どんな病気でも治す伝説の回復薬『エリクサー』を手に入れるためだった。


 僕の妹、越谷乃愛こしがやのあは生まれつき身体が弱く……調子が良い日でないと外出も厳しく、まともに友達と遊ぶこともできない。医者いわく、妹の病気の治療方法はまだ確立されていないらしい。

 

 そんな妹のお兄ちゃんだから、「慎也が守ってあげないとね」と両親からよく言われていたが……僕が中学生に上がる頃に、両親は事故で二人とも亡くなってしまった。それから僕はダンジョンに籠もるようになった。両親との約束を守るために。


 当時僕は、ダンジョンにどんな病気も傷も治すことが出来る『エリクサー』があるという噂を聞いたことがあった。誰も見たことがないらしいが……もしもこれを手に入れることができたら、妹はずっと元気に過ごせるんじゃないかなと思ったんだ。


 そんなわけで僕は学校にも通わず、近所にあるダンジョンに挑み続けた。何度も死にかけたが、妹を救いたい一心で特訓を続け……それなりに強くなり、一人でダンジョンを完全踏破したのだった。


 ……3年掛かったけど。エリクサーとか全然無かったけど。後で知ったけどその近所のダンジョン、ベテラン探索者が複数人で攻略するところだったらしいけど。


 ……で。適正年齢になったのと同時に僕は正式にダンジョン探索者になって、妹と生きていけるくらいの小銭を稼ぎつつ、エリクサーを探す生活を続けている。


 ──


 ──回想終わり。僕はエリクサーにしか興味ないから、基本は一人であちこちのダンジョンを探索している。たまにギルドに換金に行ったりするけど……妹以外の人と関わるのは本当にそれくらいだ。レアなアイテムが多く出現する、最下層のダンジョンによくいるからね。


 たまーに高レベルクランの集団をダンジョン内で見ることはあるが、そういう時は姿を消している。一人でいると遭難者と間違われて、地上に送り届けられたりすることもあるからね……。


『ガサッ』


「……ん?」


 なんか後ろから物音が聞こえたような。モンスターの反応ではなさそうだけど……人? でも姿が見えないんだけど……潜伏スキルでも発動しているのか? こんな魔石一個しか持ってない僕を襲うとは、到底思えないんだけど……。


『どうしたの、慎也にぃ?』


「いや、なんか隠れてる人がいるっぽいんだけど……」


 電話越しの乃愛に返事をしながら索敵をする。まぁそんな便利な索敵スキルなんてものは持ってないから、ほとんどフィーリングだけど……それでもなんとなくの位置は把握できた。


「この辺か……? おーい、なんで隠れてるんだ?」


「…………」


 返事は無い。意思を持って隠れていることを見るに、遭難者ではなさそうだけど……どうしようか。ちょっとだけ脅かしてみようかな。


「……」


 僕はショートソードを背中にしまい、右手に力を込めて……人がいそうな場所の近くを狙って、電撃技を繰り出した。


『ジョー・サンダー』


 するとその攻撃に驚いた謎の人物は、叫びながら転がり避けて……。


「うおぁーーっ!!! あっ、危なっ!! そんなの当たったら死ぬってば!!!」


「……えっ?」


 姿を現した。どうやらその子は制服にカーディガンを羽織った、現代の女子高生っぽい格好をしていて……到底ダンジョン探索に来たとは思えない姿をしていた。


 まさか本当に遭難者だったのか? だったら悪いことしたなぁ……と思った瞬間、その少女の背後から謎のドローンが現れてきて……彼女は自己紹介するのだった。


「あっ……ダンジョン配信者のるーたんです! 絶賛配信中だよ!」


「…………ダンジョン配信者?」


 ──

 ──


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