第26話 誘導

 作戦はこうだ。

 ギュドスフォーの悪事を陽の目に晒すには、誰が見ても明らかでなくてはならない。

 隣国の貴族との取引現場を押さえることが一番と考えたアルバータ達は、馬車に荷物を集めている屋敷を特定し、前もって貴族に献上する荷物の乗った馬車と、仲間が乗り込んだ馬車を入れ替え、隣国の貴族との取引現場を押さえる手筈だった。

 もちろん、第三者の目がなければ、後からギュドスフォーがどんな言い逃れをするか分からない。

 密かに王に密使を送り、王の側近を居合わせようとの確約を賜っていた。


「公爵、わかりました。1階の東の室内です」

 探索妨害が解けた短時間で、優秀なアルバータの仲間が荷物と子供を見つけた。子供達が1階東側の部屋に6名固めて縛られており、禁制麻薬などの献上品がその隣の部屋に箱に詰められ積まれているのを見つけだした。

「但し、雇われた傭兵が全部で10名ほど、東側で見張りをしています」

 こちらの人数はカズマも入れて8名だった。相手がどの程度の強さにもよるが、仲間は優秀だ。勝算は高い。

「馬車が準備され始めています」

 逐一入る報告により、作戦を最善に立て直すのが、指揮を執るアルバータの役目だ。


「子供達は馬車に乗せられた後だ。先に荷物の中身をすり替える」

 カズマの出番だ。

足に自信のある者がカズマの前に立つ。

 カズマが荷物を運ぶ役割をする仲間の両肩に手を置き、力を込める。結界や探査妨害と同じ要領で、仲間の姿を見えなくした。

 仲間だけでなく、仲間の運ぶニセの禁制品にはすぐに魔法が消えるよう軽く魔力をかけるのだ。魔力の消耗を懸念して、3人が限度だと事前の作戦時にアルバータに言い渡されていた。

 運び役は隠れ家と別宅を何往復もしてくれる予定だ。

 順番に術をかけ終えたカズマは、ホッとして椅子に座り込んだ。

「疲れただろう。休んでいろ」

 アルバータが最初の日のように、魔法で出した水をカズマに手渡してくれる。

 「美味しい。ありがとうございます」

 飲みながらカズマは、立ったまま指揮を取るアルバータを見上げて礼を言う。

 アルバータは普通だ。

 さっきのは何だったんだろう。聞き間違いか?

 カズマは、今はそれどころではなかったことを思い出し、しばし忘れる事にした。

 

 荷物のすり替えが終わった頃、見張り役の仲間からは、別邸内の荷物が馬車に運ばれ始めたと報告が入る。

 その時、すり替えた荷物をまとめていた仲間が声を上げた。

「おかしいです。これはただの小麦のように見えるのですが」

袋の一部が破けて中身がこぼれていたらしい。

「何だと。他の荷物も検めろ」

 慌ててアルバータとフレデリックも確認するが、やはり全て麻薬や薬ではなかった。

「やられた。誘導させられたんだ」

 アルバータが苦悩の表情で、拳を机に叩きつける。

「確かにザガールの屋敷の1階には何もなかったんですよね」

フレデリックがアルバータに確認する。

「ああそうだ。人っこ1人いなかった。まさか、煙の上がる2階に子供達がいたのか、それか地下があったのか」

「別邸に子供が6人か。なるほど、どうりで攫われたと報告の上がっていた人数より、子供が少なかった筈だ。どうしますアルバータ様」

「勿論、戻る。まだ数名ザガール邸に残っている者がいたな。早馬で知らせろ。」

「でもこちらの子供達はどうなるんですか」

カズマが気になっていたことを聞く。

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