第24話 ザガールの屋敷
アルバータとフレデリック、カズマの3人は、フレデリックの馬車でザガールの屋敷近くの隠れ家に向かう。
ザガール男爵の屋敷から数軒離れた空き家を、アルバータは見張りのために前々から準備していた。アルバータは同じような隠れ家を、ギュドスフォー邸や空き家となっている別邸近くに準備してきた。現在も仲間が見張っている。
隠れ家は、外観はこじんまりとした普通の屋敷だが、内部にはほとんど調度はない。大きな机と小さい木の丸椅子が数客散らばり、仲間が交代で仮眠を取る簡単な寝床があるだけだ。
この隠れ家には結界を張り、中から仲間が交代でザガール男爵邸の出入りを監視していた。
窓にはカーテンが引かれており、外からは中の様子は見えないだろう。
この屋敷を通り越した別の空き家で馬車を留め、歩いて裏庭を通り入って来ていた。
家の中に入った3人は、空いている椅子に座り、仲間と机を囲む。
魔法に於いても、頭脳や剣技に於いてもアルバータの右に出るものはいない。優秀な上に公爵位の上位貴族だ。
存在だけで圧倒的な力を見せつけるアルバータには、同じ貴族でも階級の低さから気遅れする仲間もいるが、フレデリックが中和してくれている。
仲間達は、アルバータに引けを取らない正義感を持つ、優秀な若い貴族が集まっていた。皆アルバータを信頼し、共に戦いたいのだ。
早速、見張りを続けていた仲間から伝達がある。
「男が2人、馬車でやって来ました。1人は恐らくギュドスフォーの手のものですが、もう1人は見たことのない若い男です。
ところが、敷地内に入った途端、若い男が1人でザガール邸を探っているようなのです」
「ギュドスフォーの手の者はどうした」
仲間がそれぞれの顔を見合わせる。
「それが、気付いたら見当たらなくて。申し訳ありません」
アルバータとフレデリックは怪訝に思う。どう考えたら良いのかわからない。
その時突然、ザガールの屋敷の方から爆発音が聞こえた。
皆一様に首を竦める。
「何だ。何が起こった」
ザガール邸側の窓にいた見張りが、焦ったように叫ぶ。
「ザガールの屋敷の1階窓から煙が出ています」
「攫われた子供達は、ギュドスフォーとザガールの屋敷、どちらにいるのか、判明していないのか!?」
アルバータが、内心の動揺を抑えているものの、強い口調で問う。
閉じ込められている子供達がいた場合、命が危険だ。奴らは自分達の財産を優先して、子供は後回しにするだろう。
黙ってここまで見ていたカズマだったが、居ても立っても居られなくなった。
「俺なら顔も知られていないから、様子を見てくる」
言いながら、既に身体は玄関に向かって走り出していた。
「待て、カズマ」
アルバータの声が背中から聞こえるが、無視して飛び出して行く。
「ゴホッゴホッ」
浩輔が片腕を、鼻と口に当てがい目を凝らす。
爆発音がした時、屋敷の周りを壁伝いに周り中を探っていた浩輔だったが、使用人達が慌てているのをしばらく聞き耳を立てていた。
そのうち皆逃げたのか静かになったことを確認すると、窓の1つから屋敷内にスルリと滑り込む。
窓から入った部屋は、人の気配もなく視界もあった。煙の濃い方に向かって進んで行く。
段々と煙が目に染みて開けていられないほどになってきたが、何とか、長い廊下を進み、片端から見つけた扉を開けて行った。
「誰もいないな、よし」
逃げ遅れた者がいないか確認しながら、ここで最後と扉を開けた。
そこには何故か、台所の窯付近に霧を起こし、燃焼物を消火しているカズマがいた。
お互い顔を見て、信じられないものを見たかのように固まる。先に口を開いたのは消火に成功したカズマだった。
「何で浩輔がここにいるんだよ」
ハッとした浩輔がカズマに近づき、片腕を取った。カズマを逃がさなければ。
「こっちのセリフだ。早く出ろ」
「離せ。それより、質問に答えろよ浩輔」
そこへ、開いていた部屋の扉から勢いよくアルバータが入って来た。咄嗟に振り返った浩輔のカズマの腕は、不意をついたカズマによって外される。
アルバータは、部屋に入るなりカズマを背に隠すように浩輔と向き合う。
腰の剣は抜かれ、いつでも振るえるよう構えながら、浩輔を鋭く見据え問う。
「貴様、何者だ」
「お前こそ何者だ」
浩輔も鋭くアルバータを観察する。
アルバータは、答えない浩輔にチッと舌打ちをし、後ろのカズマに低い声で尋ねた。
「カズマ、知り合いか」
カズマと浩輔は、お互い睨み合うようにしたまま口を開かない。
焦れたアルバータは、カズマを背に囲うような体勢のまま、ジリジリと扉の方に移動する。
「走るぞ」
言葉と同時にカズマの手首を掴み、走り出す。
浩輔は追って来なかった。
隠れ家に戻ったアルバータは、仲間達を交代で休ませてから、フレデリックと2人で計画の続きを詰めるため机に着いた。
「何考えてるんだ?アル。急に走ってザガールの屋敷に入って行くなんて。無茶だろう。顔でも見られたら今までの苦労が水の泡だ」
「すまん。カズマが危なかったから」
アルバータは顔を伏せているから見えていないが、フレデリックは口調と違って満面の笑みだ。
あのいつも冷静沈着で心を何処かに置いて来たかのようなアルがな。
私への謝罪の言葉も初めてじゃないか?
笑った所を見られたら殺されるなと、顔を引き締めてアルバータに問う。
「顔は誰にも見られていないだろうな?」
「ああ。使用人は誰もギュドスフォーに忠義心はないみたいだ。煙を見ると我先に逃げて行っていた。それに屋敷内からは子供の声はしなかった」
アルバータは言いながら、カズマと一緒にいた若い男のことを考えていた。
あの男、どうやらカズマの知り合いらしい。
ザガール邸に向かうカズマを追おうとしたアルバータは、フレデリック達に止められ遅れを取った。やっと振り切り入ったザガールの屋敷で、カズマと話す男がいることを声で気付き、血の気が引いた。幸い剣を交えず脱出でき、カズマも結局無事たったが、あの男についてカズマが何も話さず歯痒さが残る。
そしてもう1つ気付いていた。奴だ。カズマの思いの中にいた男だった。
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