第19話 婚約者

 夕食後のアルバータとのお茶の時間は、忙しいアルバータの息抜きにもなっているようで続いている。

 執事のクリスからは、アルバータは放っておくと根を詰めて仕事に没頭してしまうため、

「カズマが来てから夕食もお茶の時間もしっかり取ってくれるようになった」

とありがたがられている。

 俺も、最初気づまりだった容姿端麗な貴族様であるアルバータとの時間は、近所に住むベンチャー企業の社長をやってる凄いお兄ちゃんくらいの気持ちで接することができるようになった。

 自分の方はだいぶ垣根が低く感じていても、アルバータが遠慮しているのか、属性全て使えるようになった俺にまだ頼みごとの内容を教えてくれない。

 今夜こそ聞こう。

 頼み事の代わりにしたアルバータとの会話の時間だけを、忙しいアルバータに持ってもらっているなんて、俺が約束不履行しているようなものじゃないか。

 まあ、俺としてもアルバータがうなされる原因が掴めていないから、解決してあげられるまでにでもいいんだけど。


 そんなことを考えながら、ロンが刈り取った植木を集めていると、屋敷の前に馬車が停まるのが見えた。

 クリスが玄関から出てきて、馬車の従者と話をしている。

「誰か来たみたいだね」

 ロンに向かって何とはなしに伝えると、ハシゴに上り木の上の方の剪定していた手を止め、帽子の鍔を少し上げて眺め、教えてくれる。

「あー、あれはギュドスフォー家の馬車だな。家紋が入ってる。アルバータ様のご婚約者様でカリーナ様だね。お約束でもあったのかな。それにしては、今日はお部屋に飾る花は頼まれてなかったけど」

 庭師のロンに話がなかったのなら、約束ではないのかもしれないが、

「えー、アルバータ様って、婚約者様がいらっしゃったんですか」

 そっちに驚いている。

 というのも、アルバータからは毎日のお茶の時間に、最近だんだんと笑顔を見せてくれるようになり、だいぶ打ち解けたと思っていたのに、婚約者の話はしてくれていなかった。

 ちらっとでも話題が出ていれば、自分の方から突っ込んで聞いただろうから、今までの会話にはちらっとも掠らなかったんだと思う。

 打ち解けたと思っていたのは自分だけだったのかと、ふと残念に思うカズマだった。

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