第17話 浩輔との思い出

 いつものように目覚めると、着替えて顔を洗いに井戸へ行った。

 今日は午後からの魔法修得がいよいよ大詰めだ。

 高校受験の時の緊張が蘇る。

 でも受験の時は、緊張よりも、受験票がなくなったってパニックになったんだっけ、と思い出す。

「もう一度落ち着いてよく探せ」

 そう言って、浩輔が鞄をひっくり返し荷物を全部出してくれたら、弁当箱の下から見つかった。それで何とか受験できたんだけど、昼に開けたら弁当がグチャグチャになっていた。感謝も忘れて、後で浩輔に文句言ったんだっけ。

 浩輔とは幼馴染だから、思い出はそれこそたくさんあるが、浩輔の人助けはまぁ性格なんだろう。いい奴だもんな。

 幼い頃のことはあまり記憶には残っていないが、断片的な記憶には全て浩輔が傍らにいる。

「もう泣くな。俺がいじめたやつをやっつけてやったからな」

 そうだ、いじめっ子がいたんだ。浩輔がいっつも守ってくれようとしていた。

「お誕生日おめでとう。カズマにこれやる」

 幼い浩輔が集めていた、キラキラしたビー玉と摘んできた花をくれたっけ。

時々しばらく浩輔の姿が見えなくなることがあって、寂しくって泣いていたことも思い出す。

 小学校に入る頃には今の父母や他の友達もできて、小学校高学年になる頃からは、浩輔がいなくなることもなくなり、ずっと一番近くにいた。

 まあなんせ、ずっと幼馴染の腐れ縁だ。


 こちらの世界へ来てからもうひと月になるだろうか。最初は信じられなかった異世界へ来てしまったという人生の一大事も、魔法のある暮らしにさえ慣れて来ている自分には驚く。

 きっと自分だけでなく、悲しい事や苦しい事が降りかかってきても、皆こうやって受け入れ適応していくんだと最近たまに考える。

 お父さんやお母さん、遥香はどうしているんだろう。

 心配してないわけはないだろうな。血の繋がりがないことを気にした事はないくらい、実の家族のように接してくれていた。

 このまま帰れなくなったら親孝行できなくなるな。ごめん。心の中で謝っておく。

 前までは、この中に浩輔も入っていた。

 家族同様カズマの行方不明を心配していただろうけど、ところが浩輔もこの世界にいた。

様子が変だったから、今度はこっちが心配だ。


 成績も体格も似ていて、テストでも運動会でも良いライバルだった。

 ウチに来てゲームばっかりしてたのに、いつの間にか背がほんの少し抜かされて、顔が少しカッコよくなっちまったらモテ出してたけど。

 この世界で会った時だって捕まっていた俺の縄を切り、絶対絶命のピンチに現れて助けてくれるヒーローみたいだ。

 いつも俺がケガをしたら大騒ぎする奴だったけど、あん時は手首の縛られた傷跡を撫でるだけで、何も言わなかったな。

 それでもう1つ思い出した。昔も、2人がすごく小さい頃にも何だっけ、同じような事があったような。

 どこか怖い所から手を繋ぎ走って逃げて……。

 懸命に思い出そうとするが、それ以上は思考に靄がかかり思い出せない。今まで忘れていたが大切な事のような気がする。

 この世界に来てたんならもっと前に会いたかった。

 あの事件後も会えていない。大体今はどこにいるんだ?

 会ったことを誰にも言えないなら俺が探すことはできないんだぞ。浩輔が自分に会いに来なくては偶然会うことは奇跡だろう。


何だかんだと俺の世話焼きで、わからない勉強教えてくれたり、忘れ物貸してくれたり助けられてばかりだった。

 あれ?てことは、あいつが俺に構わなければ、ライバルにすらなれず、ずっと差をつけられてもおかしくなかったってこと?

 イヤイヤ。そんな訳あるはずない。

 カズマは自分の思考ながら、分が悪くなったことを感じる。気を取り直し今日も頑張るぞーと厨房に朝ご飯を貰いに行った。

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